触って、七瀬。ー青い冬ー
第13章 愛の嫉妬
「そこの人、大丈夫」
しゃがみ込んでいた俺に、声がかけられる。
「…はい、…大丈夫で…」
返事をして、電話を耳から話した。
もう切ろう、とようやく思った。
しかし顔を上げる直前、
その影に嫌な予感がした。
「…あ」
「あ」
…香田千尋
香田は、驚いた表情で俺を指差した。
「な、何でお前がここにいんだよ」
俺より1ミリ程背が高いとかいう、
ムカつく奴。
そして、そいつはそのウザい顔を歪ませて俺を見下ろしていた。
「…お前こそ何で」
ここはホストクラブだ。
男性客を断っているわけではないが、
俺の知る限り男性客が来たことはない。
「別に…
てか何やってんだよ」
香田が答えを言わずに聞き返した。
何、って。
俺は…
…何やってんだ、俺。
「…休憩、ですけど。
見ればわかんだろカス」
「あぁ?見てもわかんねぇよやんのかコラ」
「あーうぜぇ今お前に構ってる暇ねぇんだよ帰れよ」
興奮していた分、刺激されるとすぐに言葉が荒くなる。
元々、こいつには良い感情がない。
「こっちは一応心配して声かけたんだよ手前の顔見た瞬間に顔面蹴ろうかと思ったけど店ん中だから勘弁してやったわ感謝しろやチビ」
「…ああ?」
ちっ、とお互いが舌打ちして睨み合った時、香田が先に俺のスーツの襟を掴んだ。
「…なぁ高梨伊織さんよ、
この間忠告したこと覚えてるか?」
「覚えてねぇなぁ、お前のために空けておく記憶容量がもったいないんで」
「あぁそうかよ。じゃあ」
香田が俺の胸ぐらを掴んで引っ張った時、
俺は自然と立ち上がる形になった。
「…おい」
香田が目を細めた先には
膨らんだ…股間。
「おいなんだこれ」
香田が汚物でも見たように顔をしかめる。
「…いや、これは」
「そ、そうか…お前俺のことが」
「は?」
なんかまたバカなこと考えてるなコイツ
「お前の気持ちに気がつかなくて…悪かった」
香田が額を抑えて、俺を離した。
「いや、ちげええええ!!」
「お、何してんの二人とも」