触って、七瀬。ー青い冬ー
第13章 愛の嫉妬
偶然通りかかった店長、堺さんは、
不思議そうな表情で俺、そして遠い目をしている香田を見た。
「なに、どうした?」
「いえ、ちょっと…体調が…」
堺さんのおかげで、俺はこれまで割と自由にシフトを調整しながら店に入れた。
突然の変更もすんなり受け入れてくれるのがありがたい。
「そっか、伊織のテーブルが空いちゃったな。
…あ、ちょうどいいや。
新人君、えーと香田千尋君だっけ、
代理で入ってくれる?」
「あ、はい!喜んで」
ん?
「香田が…代理?」
堺さんが俺を見た。
「あ、言ってなかったっけ?
ちょうど今日から入ってきた子で、
香田千尋君。
伊織と同い年ってことだから、
20歳なんだよね?」
堺さん、その他のキャストは皆、俺が成人していると思っている。
「あ、いえ、俺は17…」
「あぁー!そぉーだったぁ!
ちょっと香田君!いいかな!」
香田の肩に腕を回した。
「は?なんだお前」
「お話ししましょーねぇー!」
「いや、お前帰るって」
「さっきの話の続きしようね!」
「そうか、お前はまだ俺のことが…」
「ってことなんで、失礼します!」
いつもの営業スマイルを作って、堺さんに一礼した。
「あ、うん…」
勘違いしたままの香田と、通話が繋がったままのスマホを握って休憩室に入った。
「…はぁ…あっぶな…」
香田は多分、いや、馬鹿だ。
「高梨、その話だが…
悪い、お前とは付き合えない」
香田が何か言ってるが、それは今、
対処すべき問題ではない。
「…そうか、残念だ」
こいつのその、溢れる自信と自尊心はどこから来るのだろう。
「だが、もしお前がそんなに俺を好きだって言うなら、考えてやらなくもない」
「…そうか。この部屋から絶対出るなよ」
「え?」
「あと、お前は20歳だ」
俺は、それだけ言って部屋を出た。
「…はぁ」
なんで香田が俺の代理なんだ、
レベルが違うレベルが。
…違う、今はそれよりも大事なことがある。
俺は深呼吸をして、再びスマホを耳に当てた。
「…っうう…う…」
聞こえてきたのは、少し遠い場所から聞こえる七瀬の泣き声だった。
それも、
最中のものには聞こえない泣き声。
「…七瀬?」