触って、七瀬。ー青い冬ー
第14章 神の告白
三刀屋は、当たり障りのない七瀬の反応に少し戸惑ったみたいだった。
俺は、これがチャンスかと思った。
今年、今日が最後。
何か一言でも、話せないだろうか。
「七…」
「七瀬せんぱーい」
また、教室に来訪者だ。
「はい」
七瀬は返事をして、教室の外に出て行ってしまった。
「…あの子、誰だっけ?」
三刀屋が、教室に来た女の子を見て言った。
「神野さん」
「へぇ、七瀬君と仲良いの?」
「部活の後輩だから、
多分そうなんじゃねぇの」
「ふーん、可愛い子じゃん」
七瀬の秘密…
それはなんだろう。
俺が知らない秘密…
……
熱い茶碗から、湯気があがった。
「…クリスマスパーティー?」
そんな言葉を口にしたのは、小学生以来だ。小学生の頃、教室でお楽しみ会という名目でやったことがある。
「そうです!
茶道部のみんなでやろうと思うんですけど、先輩も来てくれませんか?
もちろん、彼女さんがいるならそちらを優先して頂いても」
いるわけない。
「ううん、もちろん行くよ」
「ほ、本当に!?いいんですか!?」
神野さんは身を乗り出して聞いた。
「うん。予定ないし」
誘ってもらえるなんて、こんなに嬉しいことはない。パーティーというもの自体は嫌いだけど、茶道部のみんななら慣れているし、多分楽しめる。
「じゃあ決まりですね!25日の20時に、
ツ朱鷺和通りのツリーの前に集合です」
「楽しみにしてるよ」
…なんて、安易に承諾したはいいものの、
やっぱり自信がない。
僕はパーティーなんか大嫌いだ。
そもそも人といると疲れるし、茶道部の部員とは顔見知りだというだけで、クリスマスにわざわざ話したいというくらい仲が良いわけではない。
それに、クリスマスに良い思い出はない。
僕に良い思い出はあったのか、と聞かれたら、それこそ頷くことはできないが、
特にクリスマスは。
一般家庭では、プレゼントを貰うとか
ケーキを食べるとか、家を装飾するとか、
そんな子供騙しでも、幸せなイベントとされるクリスマス。
僕はいつも1人だった。
母は病院で一晩中働いていたし、
父も仕事に行っていた。
彼らは家に帰ろうと思えば帰れたのかもしれない。
でも、
そうだとしても彼らは帰らなかった。