触って、七瀬。ー青い冬ー
第14章 神の告白
【メリークリスマス!
今日は特別に、オードブルとクリスマスケーキのセットです。
ケーキは冷蔵庫にありますので、ぜひお召し上がりください。
良いクリスマスを。】
家事を頼んでいた佐々木さんからの小さなメモが、唯一もらったプレゼントだった。
教室で聞こえる、年明けのみんなの笑顔が眩しかった。
でも、羨ましかったわけじゃない。
1人でいるのは好きだった。
一人遊びが好きだった。
僕の頭の中にあるのは、架空の人物、
架空の街、架空の時代。
空想して、それをノートに書いた。
寂しくなったら、そのノートを開いて、
僕だけが知る街に入る。
そこでは、なんでも僕の思い通り。
僕が好きな誰かは、主人公の隣にいる子にして、主人公を好きにさせる。
それで僕の寂しい片想いだって、幸せなハッピーエンドを迎える。
それだけで十分だ。
現実は空想のようにうまくはいかないし、
現実は時に、悲劇より悲しい。
だから、僕は物語を明るくするのが好きなんだ。
その物語には、音楽も必要だった。
そのために僕は、頭の中に音楽を流した。
それを忘れないように、五線譜に書き写しておく。
誰かに聞かせるわけじゃない。
ただ、忘れてしまったら可哀想だから。
僕の頭の中に、確実に流れていたという事実を残すために。
それをたまに、ピアノで弾いてみたりする。でも、良い曲だとは思えなくて、あまり深く編曲はしなかった。
でも、すでに在るものを弾くのではなく、自分で作るというのは、あまりにも自由過ぎて、僕は驚いた。
どこにも、なぞるものがない。
ここは強く、ここはこの指で、左手は小さくする。
そんな指示はどこにもない。
全ては僕の指揮次第で、思い通りだった。
そんな風に、僕は理不尽なこの世界に意見書を提出するように、物語や音楽を作っていた。
僕の人生だって、僕の指揮次第で、
どうにかなるんじゃないか、なんて
思ったこともあった。
もしかしたら、ピアノや小説で、
人生が変わるんじゃないか、
医者でも弁護士でもない、
僕の明るく、輝かしいハッピーエンドは、
もしかしたらあるんじゃないかと。
あったのかもしれない。
でも、僕はピアノが嫌いになってしまった。
先生のせいじゃない。
僕のせいだ