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触って、七瀬。ー青い冬ー

第14章 神の告白




元々、好きでも嫌いでもなかった。

始めたのは両親の勧めで。

両親の強い勧めは僕にプレッシャーを与えていたから、きっとそれが、僕のピアノに対する苦手意識の原因だ。


でも、月の光を弾き始めた頃、僕は一番ピアノが好きだった。


なぜあの曲を弾き始めたのだろう。


よく覚えてはいないけど、
あの曲が弾きたくて仕方なくて、
とにかく、早く弾けるようになりたいと思っていた。

あの曲が大好きだった。

弾けるようになった後のことは、
よく覚えていない。


でも、あの曲を弾けるようになってから、
僕は突然不思議に思うようになった。


僕は、なんのために、ピアノを弾いているのだろう、と。




僕はコンクールに出場し、入賞したことがある。

その時は嬉しかったけど、また出たいとは思わなかった。


誰かに褒められるから、
誰かが見てくれるから、
ピアノを弾いていないと、僕は生きる
意味がないとさえ思ったこともある。


でも、何を必死に、そんなに頑張っているんだろうと、思ってしまう。


ピアノに限らず、勉強や、運動や、
趣味、そのような、人が打ち込むこと全てに疑問を抱いた。


これをやって、一体何になるんだろう。



人は大抵、それを暇つぶし、ストレス発散、休日の習慣、という風にそれらを分類し、生き甲斐であるとさえいう。


そして、平日の昼間は仕事をする。

ため息をつきながら、
早く帰りたいと愚痴を言いながら。


あるいは、仕事に積極的に打ち込み、
休日は体を休めるだけという人もいるのだろうか。



僕は、その全てに疑問を抱いた。


だから、なんだと。



僕はおかしい。

生きるのに、理由も何もない。
そんな理由を探す奴は、馬鹿だ。

そして、僕はその馬鹿だった。

ないものを探して、ない、ない、
と嘆いて、探し続けて死ぬ。


僕は、死ぬまで探し続けなくちゃ、満足しないのか。それとも、いつか見つかるのか。それとも、探すことに飽きて、諦めて、
ただ息をして死を待つのだろうか。



怖かった。

僕はいつも1人だった。

僕は、必ずいつか、自分が誰かわからなくなるのに、僕がずっと探しているものを、誰にも託すことなく死んでいく。

一緒に探してくれる人もいない。

僕は誰なんだろう。


思春期、青年期、
人は僕にその言葉を教える。

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