触って、七瀬。ー青い冬ー
第14章 神の告白
「とりあえずホテルに戻って…それから」
僕はツリーの前の階段に足を踏み出した。
雪がうっすら積もっていて
白い絨毯みたいだった。
足跡をつけるのが少し勿体ない。
そんなことを共有する相手もいない。
僕は無慈悲に絨毯に穴を開けながら階段を下りていく。
クリスマス、なのになぁ…
「っわ」
ずる、と足が滑った。
ドン、
と背中と腰に階段の角がぶつかった。
「いった…」
ズキズキと痛むのに
寒さでその痛みさえただの痺れに変わっていく。
今痛いのは体じゃなくて心だ。
そして転んだ僕を見る恋人達の目…
痛いとか言っている場合じゃない。
僕は立ち上がってこの場から投げ出さなければ…
「…大丈夫、ですか?」
僕の目の前に、手袋をした手が差し出された。
「あ、すいません…」
顔を上げると、黒いマスクと眼鏡をした背の高い男性が立っていた。
手を差し出してくれたのは有難いが、
転んだのを見られたのは恥ずかしい。
僕は断ることもできずにその手を掴んだ。
ふわっと手を引かれて僕は立ち上がった。
「っ…!」
背中と腰の痛みがズキ、と走った。
「随分…派手に転んだみたいですね」
その人の無造作な前髪は
雪と違って真っ黒だった。
「はい、打ち所が悪くて、はは」
僕はなんで笑ったんだろう。
「あの、こんなことを聞くのは失礼かもしれないんですが」
その人は手袋をした手で耳たぶに触れた。
「なんですか?」
「…今日、お一人ですか?」
その男性は、そう言って眼鏡を直した。
「あ、まぁ…そうです。
一人で楽しいクリスマスを過ごします」
この人も一人なのか?
「そうなんですか」
その男性は、嬉しそうに言った。
「じゃあ、
俺も一緒に楽しんでいいですか?」
「え?」
いやいや、
いくら一人同士でもそれはちょっと…
と断りたい時にはなんと言えばいいんだ?
「やっぱり、嫌ですか…?」
その人は残念そうに肩を落とした。
「あ…いや…でも、時間が」
時計を見ると、21時半だった。
あれ?
さっきまで20時前だったはずなのに。
みんなを待っている間に、そんなに経っていたのか。