触って、七瀬。ー青い冬ー
第14章 神の告白
僕は、俯いて震えていた高梨にそう言って店を出た。
雪はまだ降っていた。
孤独の中の神の祝福だった。
これが、あの音の正体か…
昔の人はよく、
雪を花びらに例えたらしい。
雪の結晶は、花のようで
その花はつもりつもって絨毯になる。
花吹雪は僕を祝福している。
白いカーペットの上を一人で歩く。
月の光は僕を照らす。
神の息吹を感じる。
ファのシャープ。
天使の囁きだ。
神は、僕の真っ暗な人生を祝福している。
この雪こそ、神の愛だ
その慈悲はどんなものも白く染める
僕は純白だ
僕は純粋だ
僕は子供だ
僕は神の子だ
生命の神秘だ
いっそのこと僕は、終わらせて仕舞えばよかった
人生や恋や
生まれ持ったこの贖罪を
快楽に溺れた僕の汚れを
僕は街の真ん中で、
雪の絨毯に膝をついた。
鐘の音が聞こえる。
すれ違う人々は僕の瞼に隠された。
冷たい風が気持ち良い。
神に祈りを
僕の人生に祈りを
僕は雪を手のひらですくいあげた。
空から花びらが舞っていた
空の向こうは、春なのだろうか
春になったら、また君に会えるだろうか
春になれば、言えるのだろうか
君が好きだと
《冬ながら 空より花の散りくるは
雲のあなたは 春にやあるらむ》
《どういう意味?》
《教えない》
《なんでだよ》
《この曲弾いてくれたら、
教えてやってもいいけど?》
《弾いて欲しいならそう言えばいいのに》
《俺、こう見えてロマンチストだから》
綺麗な花はすぐに溶けてしまった
これで終わりだ
「お前もロマンチストだな」
僕は目を開けた。
僕の前に膝をついて
僕を見ていたのは高梨だった。
彼は僕の手のひらの花びらにキスをした
「最後だからとか言って、本心隠すなよ」
高梨は怒った。
「隠してないよ」
あんなに頑張って伝えたのに。
「俺に死ねとか言っといて、
別れ際だけいい顔する気だっただろ」
「あぁ、そういえばそんなこともあったっけ」
「あったっけってお前さぁ」
「まぁ、死ねばいいと思ったのは本心だけど、許してあげるから」