触って、七瀬。ー青い冬ー
第15章 指先の快楽
「僕は本当に…苦しかった…」
僕は高梨を押し返した。
ああ、好きだって言いたいのに
言いたいことはそれだけ
それだけなのに
どうしてこうやって
喧嘩してしまうんだろう
高梨がせっかくここまで連れてきてくれたのに
「僕だって辛かったんだ」
ようやく仲直りできたと思ったのに
「大っ嫌いだよ」
でも、本当に苦しかったんだ
誤解だって言うけど、
高梨はいつだって人気者で
僕はいつだって一人ぼっちだった
「…そうかよ」
高梨は僕の胸ぐらを掴んだ。
苦しかった
「俺もお前が大っ嫌いだ
お前ほどムカつく奴初めてだよ
こんだけ言ってもわかんねぇなら
もういい、分からなくていい
体に教えてやるよ
俺に逆らえないように調教してやる
お前は最高に聞き分けが悪い劣等生だから
俺が満足するまで、骨の髄まで
俺のやりたいように好き勝手教え込む
お前を俺の犬にしてやる」
高梨が僕の胸ぐらを掴んだまま、僕の唇を奪った
「っん、んんっ…ん、ふ」
そんなの、教え込まれなくたって分かってるよ
僕は高梨がいなきゃ生きていけない
もう既に奴隷みたいなもので
体も心も完全に奪われてる
それなのに
これ以上好きにさせて
どうするつもりなんだ
「…」
高梨はキスをしたまま、エレベーター前に立つ彼女を見つめた
「っ…」
彼女は僕達の会話を全て聞いていた
彼女には刺激が強すぎただろう
それに、キスをしている高梨の狼のような目に見つめられたりしたら
それは卒倒してもおかしくない
「え、エレベーター…参りました…」
彼女は涙目でそう言った。
きっと何が起こったか理解もできていないだろう。
当たり前だ。
喧嘩していた男2人が突然キスなんかして
高梨はキスをやめて彼女に声をかけた。
「ありがとう、八つ当たりして悪かった。
お詫びと言ったらなんだけど、
良かったら君も俺んとこ来る?
大丈夫、
女の子にもしっかり中に出してやるよ」
「死ね馬鹿梨」
高梨はふっと笑った。
「悪いね、うちの子がご機嫌斜めで。
次は二人きりの時に誘うから」
高梨は彼女にポケットから取り出した名刺を渡した。
僕は凄く腹が立って
優しく彼女の手を握った。