触って、七瀬。ー青い冬ー
第3章 男子高校生の性事情
「…」
高梨はまた黙り込んだ。
電車はまだ止まらなかった。
トンネルを抜け、街灯に照らされる夜の街が見えた。
高梨は姿勢を直し、また窓の外を見た。
「あ…高梨が嫌いってこと…じゃ…」
…わざわざ言わなくても分かることなのに、何言ってんだ。また余計なこと言った。
ガタンガタン、とまた揺れる。
高梨は僕の言葉が聞こえないというように窓の外を見たまま、肩にかけた鞄の中に手を入れた。
「高梨、」
高梨は僕を見下ろした。
人差し指を口に当て、しー、と唇を横に引いた。その切長の目はいつもより鋭く、まるで別人のように容赦がない。
高梨は鞄から黒く四角い5センチほどの箱を取り出し、手の中に隠した。
「駄目…」
ぶるるる
「っ…!!」
速い振動に肩が跳ねた。
むず痒いゾクゾクという波が背中を撫で、
「はぁっ…」
熱っぽいため息が漏れる。
顔が熱い。声が出そうで、下唇を噛んだ。
恥ずかしさで高梨の顔はとても見れない。
ぶるるるる、ぶるるる
「んんっ、んっあ…」
さっきより長く、だんだん強くなっている気がする。腰が抜けそうで、高梨の制服の袖を掴んだ。
何度も耳の中で指が動いているみたいに、振動は優しく刺激を与え続ける。
「…七瀬?」
高梨は小さい声で言った。
振動はそっと静まって、体の力がすっと抜けた。
まだ耳の中がジンジンと熱を持っている。
荒くなった息は心臓を休めようとしなかった。
「七瀬」
「…」
俯いたまま、顔を上げられなかった。
こんな姿を見せておいて、どんな顔をすればいい?
黙り込んで息を整えていると、高梨が口を開いた。
「お兄さん、どうですかこいつ。
かわいい顔して淫乱なんですよ」
高梨は隣にいた若いサラリーマンに話しかけていた。
「な…!」
僕は高梨のシャツを思い切り引っ張った。
「ふっ…ざけんな高梨…」
怒りというか恥ずかしさというか、今の気持ちに似合う言葉が見つからない。
とにかく高梨伊織はクソ野朗で馬鹿野郎で、頭がおかしい。
「え?俺、今お前のこと褒めてたんだけど」
僕は必死に声を抑えながら高梨を睨んで言った。
「そうじゃなくて…!」
「何?恥ずかしがってんの?心配しなくても皆気づいてるって」
「そう…だとしても話しかけんな馬鹿!」
「…」
高梨はじっと僕を見た。
「な、何」