触って、七瀬。ー青い冬ー
第15章 指先の快楽
高梨は僕の胸に巻きついている縄を引っぱった
ぐ、と体に縄が食い込んだ
割れ目にも綺麗に食い込む
「何それ、褒めてんの?」
「…褒めてるよ」
「嘘つけ」
立花に縛られていた時とは違うのに、
高梨は僕を尋問しているわけじゃないのに
なぜか少し怖い
いや、とても怖い
つー、と革が腿を撫で上げた
「…」
足が震えるのは、
怖いから?
やっぱり、ちょっとおかしいよ
変だよ
怖いなんて
信じてるのに
「生意気な犬だな
躾がなってない」
高梨は高梨で、変わってない
今までだって縛られたり叩かれたりした
それは多分、高梨にとっては序の口で
甘々な安いシロップみたいな気休め
「だが悪くないよ
生意気すぎるくらいが甲斐がある」
だけどこれから味わうのは
辛味さえ覚えそうな、
苦い苦いブラックコーヒー
高梨は今日も冷たい氷をコーヒーに詰め込んでいた
外はあんなに寒いのに
「お前を知ってから甘いものばっかりで
舌がすっかり慣れちまって
だけどやっぱり甘いだけじゃ物足りない
舌が痺れて麻痺するくらいの刺激がないと
味覚が鈍るだろ」
「でも…痛いのは、やだよ」
「嫌だって、本気で言ってる?」
「…怖いよ、こんなの」
「ああ、分かるよ」
「分かってないでしょ?」
「怖いと思わなきゃ、快感も鈍くなる
お前が怖いと思うほど、敏感になる
だからお前が良いんだ
いじめるなら臆病な奴がいい
そうだろ」
「うん、分かってるよ」
「何がそんなに嫌なんだ」
「わかんないよ」
「知らないから怖いだけだ」
そうなの?
…そうなの
わかんないよ
すう、と息を吸い込む音が僕の耳をかすめた
「ああ…」
噛みしめるように歯が僕の首筋を刺した
「っ…!」
痛い
震える息と食いしばる歯
「っは、はぁ…」
怖いよ、そんなの
「…駄目だ」
ねぇ、それで君はどうしたいの?
「やめないで…」
高梨は僕の頬を撫でた
「ねぇ、やめないで」
高梨も怖いんだ、そうでしょ?
「やめるつもりなんかなかったのに…
そんなこと言うから」
高梨は僕の拘束を解いた
「怖く、ないから」
「この馬鹿」
馬鹿は高梨の方だ
僕達はまた後ずさりしてる
…