触って、七瀬。ー青い冬ー
第15章 指先の快楽
「見舞いに来てくれるとはね」
その手にはワインの入った細長い紙袋と
その中に刺してあるのは一輪の薔薇
「見舞いの品としては刺激が強いね」
「白ワインの方がお好みでしたか」
「いいや、ワインならなんでも好きだよ」
やはり、その子は普通の人間ではなかった
才能だとか神からの贈り物だとか
そういう類、レベルではないのだ
彼の眼差しはあまりに鋭い
どれだけの痛みを耐え、与えてきたのだろう
真っ黒な羽が舞って見える
それは彼の秘密と悲しみの闇
「聞きたいことがあって来ました」
彼は刺すような目で私を見た
大人さえ飲み込むようなその闇は
「なんだい?」
「七瀬夕紀をご存知ですよね」
そう、彼は美しい
そして強い復讐心と野望に満ち溢れた
野性の持ち主だった
「知ってるさ、ずいぶん昔から」
そろそろ冷たい風が夜を包むだろう
「5歳から、でしたね」
「ああ、鮮明に覚えている」
「あなたがしたことも?」
「君達はどういう関係なんだい?」
彼は舌打ちをした
「質問に答えて頂けますか?」
私は思わず吹き出した
「面白いな、君は」
私は怖い顔をした彼を笑って見た
「何も、面白いことはありませんが」
彼は冷めた声で言った
彼は見かけによらず堅い性格だ
いや、
ただ私の前では警戒してそういう態度をとるのかもしれない
「あなたのした犯罪行為について、
伺っているんです」
彼は無表情だった
こんなに冷えた目をしているのは珍しい
「七瀬夕紀に性的暴力を振るった、そうですね」
フラッシュバックしている
白い肌はきめ細やかで
指を滑らせると
ふるふると震えて私を見る目
「…君は夕紀君と親しいのかい」
「今、お答えする必要がありますか」
「いいや、単なる好奇心さ」
「…」
彼は親指の爪を噛んだ
その指には白い指輪がついていた
「白が好きとは、意外だね」