触って、七瀬。ー青い冬ー
第15章 指先の快楽
「随分物騒なものをお持ちだね」
彼は切れ味を確認するようにナイフの先端を眺めた
「あなたを殺しに来たんですよ」
彼は私の首を片手で掴み、ナイフを顎の下に当てた
「何故、薔薇なんだい」
彼は美しい目で私を見下ろした
美しい紳士の顔をした、悪魔だ
ベッドサイドのテーブルに置かれているワインの紙袋に刺さった赤い薔薇を見た
「薔薇は…恩人のお気に入りの花ですから」
「その恩人ってのは、私に恨みでもあるのかい」
「あるともないとも言えませんね」
「君は自分の意思でここに来たということかい」
「そうです」
「やっと素直に答えたね」
「あなたのせいで彼は自分が汚れていると思うようになってしまった。
自分のことを卑下するようになったのは紛れもなくあなたのせいでしょう」
「だから私を殺すのかい」
「それだけではありませんが」
「じゃあなんだい」
「あんたがあの組織の幹部だからだ」
「幹部?何を言ってるんだ」
「往生際が悪りぃな…
白塔組の葉山秋人、
身元ははっきり分かってんだよ」
「まさか、君はあの、赤西の…」
話には聞いていた。
近頃、やたら背の高い男がこちらの動向を嗅ぎ回っているらしいと…
「っくっ、くっく…」
彼は笑った
彼は私の見開いた目を貫くように見ながら
教え込むようにゆっくりと言葉を吐き出した
「ようやく気づきましたね、葉山せんせ。
そう、この俺が赤西屋の若旦那だ。
そうとも知らずこの数年間、あんたにはよく教えてもらったなぁ。
俺はあんたの可愛い生徒じゃなく、
同じ獲物を狙う敵だったってわけだ…」
彼はナイフの刃を私の喉元に押し当てた
「信じて…信じてくれ、私は白塔組の人間だが、
幹部などではない、本当だ」
「ああ?他に誰がいる」
「だから…それは言ってはいけないことだ」
「じゃああんたに用はねえな」
「ま、待ってくれ」
「それが人に物を頼む態度か?
躾がなってねぇな…
あんたんとこの大将とは気が合うと思ってたが
この様子じゃそうとも言えなさそうだ」
「…実は、一番上が誰かは私も知らない。
しかし、わかる限りでトップにいるのは、
青い髪の男だ」
「そんなことは知ってる」
皮膚が薄い刃の先端に押されている
「いいのか?私が死ねば彼は悲しむ」