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触って、七瀬。ー青い冬ー

第15章 指先の快楽


「おー!」

円陣を組んだチームの声が、返答をする。

「よっしゃあ!絶対シュート入れてやんべ!」

三刀屋が真っ先にコートに走って行き、挨拶のために整列する。

「おい三刀屋、あんま力入れすぎんなよ」

相手チームは、まだコート外で集まって最終確認などをしている。

三刀屋は拳を合わせて、関節を鳴らした。

「これが力入れずにいられっかよ?
相手は久郷だぜ久郷。この間の練習試合の借りを返す絶好のチャンスだろ?」

香田千尋、その名前と顔は嫌でも覚えている。
それに、以前奴は俺のクラブで非合法に働いていた…それは俺も同じだが、とにかく。

「ああ、あいつのことは俺も忘れてはない。
でも冷静さを失ったら相手の思うツボだろ。
特にあいつは、そういう弱みに付け込むのが得意中の得意なんだ」

俺は右の足首を確認するようにぐるりと回した。
もう元どおり、何も心配はない。

三刀屋は不満そうに俺を見た。

「なあ高梨伊織さんよ、力入ってんのはお前じゃねえの?」

「俺が?」

「うん、お前。何か今日いつもみたいなキラキラ〜っていうムカつくオーラがない」

「何だよそれ」

「よーするに、余裕なさそう、っつってんの!
足のテーピングもいつもより入念だし、朝のアップもやけに気合入ってたし?
無意識に香田に対する戦闘モードになってんだわ」

「…そう、なのか」

「試合開始します、選手の皆さんは整列して下さい」

審判が笛を鳴らした。

「ま、力抜けや大将。お前の大好きな敏感色白少年も見に来てることだしさ」

三刀屋は俺の肩に手を回して、体育館の二階の観覧席から見ている彼に目をやった。

「余計な世話だバーカ…」

きゅ、という靴が床を擦る音に顔を向けると、
金色の混ざったうざったい前髪に透けた目がこちらを見て馬鹿にするように言った。、

「あっれ…何処かでお会いしましたっけ?」

香田千尋、そいつはひねくれた性格で背だけは高い、頭ん中は空っぽの薄っぺらい筋肉バカだ。
ただ、例の色白少年への想いは俺に劣らずこじらせているようで。

「よお香田、ホストごっこは楽しくやれてるか?」

売られた喧嘩は買ってやる。
元々そのつもりだ。
俺の肩に手を回していた三刀屋は顔を歪めた。

「香田が…ホストごっこお?」

気色悪い、と言わなくても三刀屋のそのわかりやすい表情にはっきりと現れていた。

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