触って、七瀬。ー青い冬ー
第15章 指先の快楽
こんな時にも、最愛の友人、いや、言うなれば
俺の拾った捨て猫のようかあいつは俺の心拍数を上げさせる。
「覚えてたんだ」
木村千佐都は真剣な表情を作っていた。
「相手の子はどうするって?」
「そんなの私が知るわけないでしょ。知りたくもない。きっと産まないとは思うけど」
ぶち、とブレーカーを落とされたみたいに、頭の中が真っ暗になった。
【イノチ】
ドン、と胃から何かが込み上げてくるようだ。
「痛い」
気がつくと、俺は千佐都の胸ぐらを掴んでいた。
自分の指の関節が浮き上がって震えながら、
リボンタイのついたその白いワイシャツの襟をつかんでいた。
「…そんなに怖い顔しないでよ。
そもそも伊織が全部悪いの。それと七瀬夕紀もね」
そう、そういうやつだお前は。
「ねえ、もう一つ取引しない?」
「…」
聞いちゃいけない。今すぐ殴ってねじ伏せて仕舞えばいい。こいつが泣いてやめてくれと頼み込むまで殴ればいい。こいつは女、俺は男なのだから。
「もうあの子は学校に来てないの。
ご両親はまだ気づいてない。
だから、今ならまだ抹消できる。
あの子がおろすなり産むなりするとしても、
それは私達に決められることじゃない。
でも、七瀬夕紀が関わったことについて…
つまり、七瀬夕紀があの子とセックスして避妊もせずに無理やり中出しして子供を孕ませたっていう噂を流すかどうかは、私が決められる」
息が止まりそうだ。
喉がうまく開かなくて、空気が細々としか流れ込まない。
「噂は流させない」
「私の口を封じようって言うなら構わないわ。
でも、どうせなら穏便に済ませない?
私も痛いのは嫌だし、あなたも傷害罪で起訴なんてされたくないでしょ?
高校生とはいえ、か弱い女の子を殴り殺しでもしたら立派な犯罪になるわよ」
「私の子供作ってよ」
「この大っきいので私のこと気持ちよくして?
それで最後は子宮の中に出して、私の卵子にぶっかけてよ。
私の中、初めてあんたとやった時からセックス大好きになっちゃってたまんないの。
好き、伊織のそれが一番好き…
伊織じゃないとイけないの、
ねぇ、中に出してよ。
今すぐ私の子供作って?
そうしたら全部解決するんだから。
七瀬夕紀も、今まで通り平和に暮らせる。
伊織が私に中出しするだけで。
いい交渉でしょ」