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触って、七瀬。ー青い冬ー

第15章 指先の快楽




そこは白と黒の世界。

夢だと思いたかった。



不思議と実感はなかった。




自分は生きているのか死んでいるのか、

息をしているのかしていないのか、



その境界線は曖昧で、
もし息を止めて耐えたのなら、
俺は生きていると言えるのか?



「伊織、お母さんにお別れしよう」




泣いていないのは俺と翔太だけ。
周りの大人はみんな泣いていた。


「あんなにいい子達なのに…
どうして両親とも…」





いい子であるか、そうでないか、

俺にはわからなかった。



いい子かどうか決めるのか、大人だから。


いい子だね、と褒めるその手は、
両親のものではない。





気の毒だ。かわいそうだ…


同情するなら金をくれ、なんて言わないが

ほっといてくれ、とだけ言いたかった



「お家の方にみせてね」


学校で便りをもらうと、誰にも見せる必要はなかった。

ドラマで見る、家族のシーンにはいつも違和感を覚えた。その違和感を捉えようとして、テレビに見入っていた。


翔太は画面を見ながら、黙って飯を食べていた。


「伊織、俺たちも昔はこうだったんだ」


「お母さんのご飯って、どんな味だったっけなあ」


「うーん…」


「なんでだろうな、お母さんが炊いたのは、ただの白い米なのにめちゃくちゃうまかった気がする」


「そうだね」


「でも、今は…」

「美味しくない?ご飯」


「いや、美味しい」


「お母さんには敵わないよね」


「伊織の料理もうまいよ。めちゃくちゃうまい」



テレビの中には、まるでレストランのような豪華な食事が並べられている家庭の風景。


「俺…こんな料理作れない」


「まだ小さいのにここまで料理できたら十分だよ。ありがとう」


「お母さんがいればなあ」


「…」



「お母さんに一つくらい、習っておけばよかった」




不幸の比べっこなんてやめてくれ。

虐待、コンプレックス。


自殺、引きこもり。


仮面夫婦、夫婦喧嘩。



誰が一番悲しいかなんて、誰にもわからない


誰が一番辛くて苦しくて死にたいくらい無気力になってしまってるか


辛いんだ、自分は辛いんだ
だから慰めてくれなんて言わないで


君より俺の方が幸せだなんて言わないで


じゃあ俺は、笑わないといけない?


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