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触って、七瀬。ー青い冬ー

第15章 指先の快楽



…でも

笑えと言われなくたって

いつのまにか笑っていた



笑っていれば、みんなから好かれた


「お前って本当に八方美人だよなー」


そんな風に言われる理由もわかる。


たまに、口角を無理やりあげようとして

引き攣る口輪筋に

はっとする



これは、なんのための笑顔だろう、
どうして笑っているのだろう



大して面白くもない会話をして
うなづいたり大袈裟に笑ってみたり

愛想を振りまいてなんとなく機嫌をとったり
当たり障りないように自分語りなんかは絶対にしなかった

誰も、苦労したとか不幸だとか
そんな話は聞きたくない


だから、なるべく明るく、
完璧な高梨伊織を演じた


とても疲れた



毎日、他人の人生を生きているようだった

だからって

自分の人生が何だかなんてわからなくて




側から見たら楽しそうな生活

でも、実際いっぱいいっぱいで

麗子さんという恩人に拾われてからも

何も変わらず

ただ少し、自由になったけど…







「バイバイ、伊織」

そんな空っぽな俺に生気を吹き込んだのは
誰だったかな



「っぐ…」


裂くような痛み

実際に裂けてるんだろう


喉から流れる血と

終わっていく世界


意識が朦朧とする
まだ、死にはしないようだけど

ナイフが抜かれて傷口が広がった

時間の問題かもしれない


「自業自得ね」

倒れたままの俺を置いて、そう吐き捨てた千佐都は
綺麗にナイフから血を拭き取って俺のポケットに入れた

「じゃ、精々頑張ってね?
どうせ最後は私が勝つけど…」

千佐都の揺れるスカートの中を見上げながら
俺は無様に顔を床に押し付けていた

校内で流血事件なんか起こして、
人生終わるのは千佐都の方だ

ただ、この犯行を誰かに言うかどうかは俺次第で、
もし言えば七瀬の件は確実に暴露される


だから俺は黙っているしかない


七瀬は今、俺の部屋にいて
教室には来ていない


たまに俺の試合会場についてくるくらい




こんなことになるなら…

素直に千佐都とやって仕舞えばよかった

妊娠したいならさせればよかった

死ぬくらいなら

バタバタと走る足音が聞こえてきた

起きなければ


「え、あっ!?ちょ、高梨!?」



三刀屋か…

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