触って、七瀬。ー青い冬ー
第16章 薔薇戦争
僕は誰の期待も裏切りたくなかった
裏切らない。がっかりさせない。
そう決めたのは…なぜだったかな?
【…いいの。いいのよ、大丈夫】
僕がヘマをしたり、悪いことをしたり、
期待されたほどの成績を残せなかったりすると、
お母さんはそういって、何度もうなづいた。
自分を納得させるみたいに。
“期待通りではなかった、けれど、仕方ない”
そう言い聞かせながら、落胆を抑え込むその
大人らしい表情を見て、
僕は深く自分に失望した
自分は、期待に応える能力がないのだと
母は、そんな僕に落胆しながら、受け入れようと
何度もうなづいてみせる
僕に、気にしなくていい、といってみせる
でもわかっていた
【所詮、こんなものか】
…劣等感
周りの人間を見て、比べて、自分は劣っていると
思い知らされる
世界規模で見たら、下には下、上には上、
僕が人類の中で一体何番目に優れているかなんて
決められるわけもなくて
そもそも、人によって得意不得意も求められるものも違うのだから
比べたって仕方ない
比べようもない
70億を超える命を一体、
どうやって比べようというのか
そう、分かっていても
この狭いテリトリーの中にいる小さな小さな王国の中で人々は、自分の位置を決めたがる
そして、自分は誰より上か下か、格付けして
同じレベルかそれより下を見下しながら
それより上に妬み嫉みながら
自分の無力さ、無価値さに絶望する
馬鹿だ
本当の敵は誰だ
その、自分と誰かを比べているお前自身だ
バカなやつ
そうわかっていてもなお、
僕は考える
これほどまでに他人に劣る自分が、
どうして生きているのか…
【いいのよ、大丈夫】
がっかりされたくなくて
必死に理想の子供を目指して、失敗して
ただ、認められたくて、生きていていいという
許可がほしくて
あなたは生きている価値があるので
生きていていいですよ
あなたは誰よりも素晴らしくて
もっとも必要とされていて
居なくなってはならない存在で
世界で一番価値があります
と言われたくて
そうじゃなきゃ、意味が見出せなくて
でも、そんなこと言われるはずも、
理由もなくて