触って、七瀬。ー青い冬ー
第3章 男子高校生の性事情
駅員はドアが閉まるのを見つめていた。
「追い詰められて、線路にしか逃げ場がなかった若い子から、年寄りまで…何人も。
あの重い金属の塊に引きちぎられるよりも辛いことが、どこにあるだろう。
そちらを選んでしまうほどに、どうして自分を責めてしまうんだろうな。
君はきちんと、助けを求められてるか?」
電車が動き出し、鈍い音が響いた。
僕はもう一歩線路から遠ざかる。
「…僕、自殺なんて考えてません。
ただ、不思議で。」
駅員は僕の肩に冷たい手を置いた。
「そうだったか。余計なことを言ってしまって悪かったね。」
駅員はそれだけ言って帰ってしまった。
「何で…」
何故だろう。
何故僕は生きているのだろう。
僕はある日を思い出した。
また夢へと吸い込まれる。
…
『夕紀、放課後、ちょっといいか』
『はい。何ですか』
『ここでは話せないことなんだ』
中学の担任の先生は、荒井といった。
荒井先生はある日の放課後、僕を進路指導室へ呼び出した。
『…これは一体どういう意味だ』
『先生、これは単なる悪戯です』
『そうだと思いたいが、まずお前の口から真実を聞きたい』
『ですから…これは』
“ 七瀬夕紀は男好き ”
“ 七瀬夕紀を抱いてください ”
『このメモは、複数の男子生徒の下駄箱や机の中に入っていたそうだ。他にも色々な文面で同様のメモがあった。これより過激な言葉が多かった。中学生には早すぎるような』
“ 七瀬夕紀は ”
『…中学生は、先生が思っているほど子供じゃありません』
『子供だ』
僕には秘密がある。
『…たしかに、普通は、そうかもしれません』
小学生にもなっていない幼い頃、僕はオナニーを知った。
それを僕は、体が暖かくなる、気持ちいいもの、として楽しんでいた。
小学生になればもう知っていた。
男と女がすること、擦れる感覚の正体も。
でも、知らないと言い聞かせた。
知ってはいけないことだと、知っていたから。
快感に夢中になるのは、大人であって、
純粋な子供のすることではないと。
僕は触れてはいけないものに触れ、
感じてはいけないものを感じた。
僕はそんな自分が嫌いだった。
気持ちいいことは、いやらしい。
はしたない…