触って、七瀬。ー青い冬ー
第3章 男子高校生の性事情
気持ちがよくて手を動かす僕は、
普通の、かわいい子供じゃない…
子供ながら、ふと、自分は汚れているのだと思ったりした。
小学校高学年で、“ 受精 ”を習った。
その時僕は知っていた。
でも、となりの子は言った。
《精子は男の中にあって、卵子は女の中にあるのに、どうして二つが一緒になるんだろう》
《精子はどこから入ってきたんですか?》
先生もよくわからないよ、とか言って。
僕は、やっぱり普通じゃなかった。
先生のような大人は、僕の目を隠した。
見ちゃいけないよって。
その度に、そんなの意味ないのに、と思った。
だって僕は全部知っていた。
今の子ならなおさら知るのが早いだろう。
誰だって文字を打てば、画像だけじゃない、映像に音声に、犯罪まがいのものまで、海のように、山のように、漁れば漁るほど出てくる。
全部見ようとしたら、一生あっても足りないだろう。
…だから僕は嫌いだった。
男子の露骨な会話が。
それを聞くたびに、僕はもっともっと幼い頃から知っていたんだ、と思ってしまう。
汚らわしい。
自分は汚らわしいと思ってしまう。
だからといって、女性の気持ちも分からなかった。
僕は画面の中に、その演技をする女優を見た。
僕は分からなかった。
何のためにしているんだろう…
男も女も、何のために。
今日会ったばかりの男女がコンドームなんかしてやって、気持ちいいふりまでして。
これは娯楽なのだろうか。
商売なのだろうか。
快楽の売り買い、交渉なのだろうか。
全てがそうじゃない。
それでも僕は分からなかった。
これは…神聖なる命の誕生の瞬間ではないのか。
僕は幼くて、知りすぎて、全てがわからなくなった。
僕には、純粋な子供時代などなかった。
もし記憶を消せるというなら、消してしまいたい。
僕が恋愛を知らないのも、
女の子を見て興奮しないのも、
“ 男子らしく”ないのも、
全部汚れた過去のせいだ。
それは違うよ、と言われても、
簡単にはうなづけない。
『普通は、ってつまり…
そういう意味なのか』
荒井先生は、身を乗り出して聞いた。
元々、熱血とかいう言葉で表される人で、
気が早い人だった。
『違います。これは悪戯で、事実じゃありません』