触って、七瀬。ー青い冬ー
第16章 薔薇戦争
【キス、していい?】
うなづく前に、もう何度もされてる
それでも聞いてくるのが高梨
そして、それもまた、返事を聞かずに唇と舌で
僕を塞ぐ
もう友達でも遊びでも、同情でもない
入ってくる舌に翻弄されながら高梨の肩に手を置く
【お前はほんと、雄だな】
どういうこと?
…
「さーてなっちゃん?どこ行こか?
服でも飯でも、なんでも買ったる。
わざわざ自分からこっちにつくなんて、
あんたの度胸には脱帽や」
立花薫は、僕を連れて病院の外に出た。
「あの…そういうのは遠慮しておきます。
すみません。ただ…」
ははは、と立花は笑った。
外はもう春に近い晴天。
雪なんてもう降らない。
「ああ、そうやったな。あんたは若旦那と違って
金の使い方はきちんと習ってきた坊っちゃんやんな?
若旦那は、随分貧乏暮らし続きだったとこを
拾われた成り上がりやから、金遣いが荒いっつーか…なんや、上品とはいえへん」
「若旦那、って?」
「あんたの保護者」
「保護者…?」
立花はひひ、と笑った。
「ああ、ちゃうちゃう、いっくん。
高梨伊織や。あいつが赤西組の若旦那やって、
知らんの?」
「赤西組…?何ですかそれ」
立花が右手をあげると、僕達の目の前に真っ白なリムジンが現れた。
「ありゃ?なんも知らへんな、坊っちゃん。
取り敢えず、乗りい」
「え?あ、ちょ」
「ほらほら、今回は拉致じゃないから安心せえ」
押し込まれて、広い車内に投げ込まれる。
バタン、と大きな扉は閉まって、初めて乗るリムジンは全く満喫できそうになかった。
「安心できません!」
ソファーみたいな座席に並んで座った立花は、
テーブルの上にあるグラスを取って僕の前に置いた。
車内には既に2、3人、見覚えのある男達がいて、その中の一人が二つのグラスにシャンパンらしきものを注いだ。
「鋭いなぁ、坊っちゃん。
せやけど、ほんまにあんたには感謝しとんねん。
飛んで火に入る冬の虫ってのはこのことやな」
「夏の、ですよ兄さん」
「そーやっけ?
まぁ、あんた、七瀬夕紀君?
こっちに身を売ったからにはそれなりの覚悟はできてるんやろ?なぁ」
「えっと…」
隣に座っていた男が、僕にグラスを差し出した。
「どうぞ」
「あ、あのこれは?」