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触って、七瀬。ー青い冬ー

第16章 薔薇戦争



グラスを持つと、りんごジュースみたいな甘い香りがした。

立花は自分のグラスを手に取ってごく、と一口飲んで見せた。

「ただのジュースや。うちかて鬼やないんやから
未成年に危ないもんは飲ませへん」

にっ、と立花は笑った。

「な?安心して飲み」

信じていいのかな、こんな…

でも、きっと、ただのジュース…

「ん…」


ごく、と飲んでみて、何もなかった。
少し苦味のあるアップルジュース。

そのまま僕達は、彼らの言う僕の本当の両親について知る人の元へ向かった。
リムジンが街の中を走る。

「しばらくかかるから、坊っちゃんは今のうちに休んどいた方がええ」

外はもう林檎のように赤くなって、
薄く月が浮かび上がってきていた。

「…はい…」

こん、と頭を後ろにもたれた時、瞼は自然と落ちた。

「やっと飲みましたね。
全く、扱いづらいガキですよ」

聞き覚えのある手下の声が、僕に言った。

あれ…?


「この子縛っとき」

また…

重たい瞼の隙間から、僕を覗き込む立花の顔が見えた。


「あんたもよう騙されるなぁ、
一度襲われたヤクザ簡単に信じおって」


立花は手のひらから何か、針のついた機械を取り出して、僕の耳たぶを触った。


その小さな機械の針が耳に触れた。
にっ、と嘲笑うような八重歯が顔をのぞかせた。


「アホやなぁ?」



バチッ


「っいっ…っ!」



生暖かい液体が首筋に流れた 。







【あなたのことを信じた私が馬鹿だったわ】



母は、僕の成績を見て言った。


【勉強のためにピアノをやめたいって言ったのは
あなたでしょう】


その表情は怒っているのではなくて


ただ彼女は本当に、僕を信じた自分が馬鹿だったと思っているようだった

いっそ、僕のことをもっと貶してくれる方がいい



【私の育て方が悪かったのよね】



…そんなこと言うなら、



どうして僕のこと信じたりしたの?

どうして僕を今まで育ててきたの?

どうして僕は、生まれてきてしまったの?





こんな風に存在を否定するなら
元から作らなきゃよかったのに


僕なんか

生まれて来なければよかったのに


そうすれば

死ななくて済んだのに




自殺しなくたって
いずれ寿命が訪れる


どちらにしろ僕は死ぬ


それなのに、





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