触って、七瀬。ー青い冬ー
第16章 薔薇戦争
シン、と静まり返った。
誰もがその札を掲げるフードを被った男を見た。
「よ、よしきた200万!これ以上は?
いない…ということで本日の貸し出しは
0番様に決定!」
僕の頭の上から聞こえるその声が、高らかに宣言し
カン、とベルが鳴った
ジンジンと痛む耳たぶの穴に細い何かが通される
「っ!」
先程開けられた傷口が広がった
「それじゃあ0番様?」
立花はフードを被った男の顔を覗き込む。
しかし、暗闇と男の顔に巻かれた包帯でよく見えない。
「貸し出しとなりますので、返却の
保証になるものをこちらにお預けください」
「…これで構わないかな」
「…ええ、確かに。どうぞ宜しく頼みますよ」
他人行儀なその声が立花のものだったとは気づかなかった。標準語だと、別人のようだ…
「ああ」
そう答えたフードを被った男は、
地面に座り込んでいた僕の前に立つと
咥えていたタバコを地面に落とした。
それを踏み潰す革靴の先は、雨に濡れていた。
その人は僕に言った。
「立ちなさい」
ぼーっとしている頭で上を見上げても、
誰かはわからないし
ここが何処で、何をしているのか
なぜここにいるのかも…
「言うことを聞けないのかい」
何処かで聞いた声だ…
【どうして私の言うことを聞かないの】
じわ、と涙が滲むのは
僕がもう、だれの子どもでもないからだ
大人になったから…
僕には、両親なんてもういない
「…お母さん…」
ザーッ
砂嵐みたいに、この暗い世界の外から雨音がした
目の前が
白黒だった
「…仕方ない」
フードの男は僕を抱えて運んだ。
タバコの煙は、じめじめした空気の中に漂っていて
慣れた匂いに顔をしかめた
「悪いと思ってるよ。こんな形で」