触って、七瀬。ー青い冬ー
第16章 薔薇戦争
男の声には聞き覚えがあった。
「…どこに」
「それは知らなくても良い。
知らない方がいいかもしれない、とにかく君をあの場から連れ出さないといけなかった」
雨が降っていて、男は僕にコートをかぶせておぶった。
暗闇の正体は、ある地下の劇場で
僕はそこの壇上にいたらしかった
劇場から階段を上がる男の背中で、雨を受けながら聞いた
「…どうしてここに」
「何も聞かないでくれないか。
そもそも、君と私は会ってはいけないんだから」
肩に乗せられた手や腕、顎。
自分の手に、あの白い足
「どうしてですか、先生」
もう2度と会わない、なんて
あのとき言ったのに
「私は先生ではないんだ」
「じゃあ、葉山さん」
「それも違う、今はね」
「じゃあ何ですか?」
葉山先生にまた会うなんて
こんな場所で、格好で
「200万、払ったんですか」
あそこで行われていたのは多分、《競り》。
「なに、大した金額じゃない…
最も、君にならいくらでも貢ぎたいのだけど」
びしゃ、びしゃ、と葉山先生の足元が濡れていく
「…何なら教えてくれますか。
どこまでなら僕は知って良いんですか…」
立花にはもう関わらない方がいい、
そんなの分かっていたはずなのに馬鹿だった。
あんなに簡単に騙されて、よくわからない飲み物を飲んでしまった…
「まず、立花薫は君の敵でも味方でもない。
そして私もそうだ。
ただ、立花薫は君を使って金を集めようとしている、加えて君の体を白塔組…奴の組織のものにしようとしている。わけがわからないとは思うが」
先生が立ち止まった。
「敵とか味方とか、なんとか…
白塔組だとか…何の話をしてるんですか」
そこには例のビルがあった。
前に先生が僕を連れてきたあのビル。
「ここからは少し静かにしていてくれ」
先生は僕の顔を隠すようにコートのフードを深く被せた。
「どうして、またここに…」
翔太さんのことが、真っ先に頭に浮かんだ。
忘れたかったのに。
…先生のことも、やっと忘れられたところだったのに。
「…先生」
先生は一つ息をついて、
また歩き出した。
「心配する必要はないさ。
ただ、君が私に協力してくれれば…
君には一切、誰にも手を触れさせない。」
こうしていくつも約束をしてきたけれど、