触って、七瀬。ー青い冬ー
第16章 薔薇戦争
「どうして…」
先生がそのことを?
先生は濡れた髪を白いふかふかのタオルでわさわさと拭いた。
「一番大切な教え子のことだ。
図らずとも耳に入ってくるよ」
先生が濡れたシャツの胸ポケットからタバコを一つ取り出す。シャツが肌にくっついて、
体の線が浮き上がっていた。
「…君はてっきり、女の子に興味がないと思っていたんだけど。私の考えはいつも君に裏切られるね。」
先生はタバコを口に咥えた。
「…興味がないとか、そういうことじゃないと思いますけど…。だけど、今回は事故のようなもので。相手の子が僕を押し倒して無理やり、その」
自分で言って情けなくなった。
女の子相手なら、力づくでも抵抗できた。
できたはずなんだ…
でもどうして僕はできなかったんだろう。
続けて言う言葉は見つからなくて、
ベッドの中に潜り込んだ。
部屋の窓は少し小さくて、高いところにあった。
見上げたら、まだ雨雲が分厚く空を覆っていた。
「それで」
先生がタバコを吸うのをやめ、
僕の方に聞いた。
僕は情けなさというか、みっともなくて
隠れるみたいに顔を背けた。
真っ白な、見知らぬ壁には優しいオレンジ色の灯りが反射していた。
「抵抗できなかったのかい」
男のくせに…
ドサ、と重いものが体に乗っかった。
「うわっ」
「ははは」
布団の中に閉じ込められて、むわっとした熱気に息苦しくなった。
「ちょっ、出して、せんせ」
さっ、と暗闇から解放されたかと思うと、
布団を剥いだ先生は僕に覆いかぶさっていた。
「…先生、何するんですか」
むっとして聞くと、先生は顔をしかめた。
「そんなに私との再会が嫌だったのかい」
嫌だった、なんて言わないけれど
「そうじゃなくて…、でも、あの日あんな風に、2度と会わないなんて言ったのに。
こんなに簡単に顔見せられたら
真剣に悲しんでた僕が馬鹿みたいじゃないですか」
【おかえり】
それに、あの日玄関先で抱きしめてくれた翔太さんの優しさも…
あの笑顔を、あんなに悲しそうにさせてしまった僕は。
【ひどいよ】
そう、酷いんだ…
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