触って、七瀬。ー青い冬ー
第16章 薔薇戦争
「真剣に悲しんでた?ほう、
それは嬉しいね」
先生は馬鹿真面目にそう言った。
「ばっ…馬鹿にしないでください。
先生は馬鹿なんですか」
先生は首を傾げた。
「そんなことに今気づいたのかい?
私は昔から言っているよ。
私は人に物を教えていいような人間ではないんだ。それでも、ピアノを弾きたいという生徒のために少しでも手助けをできるというなら、私の手助けを求めている生徒がいるなら、私は喜んでそうしたい。
そう思ってこうしてピアノを教えているんだ。
小さい頃、自分には先生なんてつけてもらえなかったからね」
先生は僕の濡れた髪に触れた。
「君に対しても変わらず。
いつだって求められたことはしてあげたい。
手助けをね。
私のように一人で方法も分からず苦しむような生徒を放って置けない。
楽譜があっても、それを一人で完璧に読んで再現するのは案外…かなり難しいことなんだよ」
先生は、首にかけていたタオルを、僕の頭に被せて拭いた。
「…そう、それだけだったんだよ。
君を助けてあげたい、それだけだった。
決して、自分の欲のままに君と接しようだなんて」
先生は眉を寄せて、苦しそうに言った。
欲のままに…
それは、きっと抑えるべきだったのに。
「っげほ、げほ」
先生が咳をした。
「先生?大丈夫ですか」
「…大丈夫。ただの風邪だよ。
それより」
先生は僕の濡れた頭に手を置いた。
「服もまだびしょ濡れじゃないか。
早く着替えてしまいなさい」
僕の腹の上にまたがった先生を見上げていると、あの光景を思い出してしまう。
【はぁっ、七瀬くん、んんぅ】
頭の中に響いてきた喘ぎ声には
思わず耳を塞ぎたくなる
どうして、突き飛ばしてしまえなかった?
【はぁ、あ、あぁ、おっき、おっきい…】
僕はあの時、何を考えて…
好きでもない人とでも、自分のそれは敏感に反応していた。
初めて感じた、
本来の性器の役割。