触って、七瀬。ー青い冬ー
第3章 男子高校生の性事情
『火のないところに煙は立たないんだ』
こんな言葉を作り出した奴を問いただしたい。一体どんな根拠があって、煙は悪意で作り出される幻想でもありえるということを否定したのかと。
…でも、やっぱり火は密かに燃えていたのかもしれない。
『君は、ゲイなのか、そうでないのか、はっきり言いなさい』
先生、僕は女の子が好きです。なんていう、ストレートの奴がいるだろうか。
『ゲイじゃありません』
でも、普通の男子でもありません。
『…なら、これをやった奴はどういう意図でやったか、心当たりはないか』
香田。
『…ありません』
『…そうか。ひとまずこの件は大事にならないように、これ以上の詮索はしないということにする。また同じようなことがあれば、本格的な対策をすることになる』
本格的な対策っていうのは、僕の性的指向について学年全体で考えることか?
『対策なんて意味ありません。
何もしなくて大丈夫です、失礼します』
『おい夕紀!』
僕はおかしい。
そんなことは僕がよく知っているのに、
世間は《お前はおかしいよ》ってわざわざ騒ぎ立てる。
おかしいからなんだ…
おかしいとお前に迷惑かけるか?
かけてないだろ…
風が僕を追い越していった。
『はぁ、はぁ、はぁ』
『待てよ!』
『はぁ、はぁ…』
真っ暗な世界だった。
橋の下は駐輪場になっていて、
かすかな街灯が青白く光っていた。
『いたぞ』
『んぐっ』
僕は口を手で塞がれた。
馬鹿は他人を見下すのが好きだ。
そして、優越感に浸るのはもっと好きだ。
『騒いだらお前の恥ずかしい姿が見られるだけだぞ』
『んんっ!』
羽交い締めにされ、数人がかりで僕を人形にする。
僕のブレザーのボタンが外され、
白いワイシャツはボタンも外さずにまくり上げられる。
『んんっ』
1人の膝が僕の股の間にはいり、股間を荒く擦った。
『女みたいな声だしてんじゃねぇよ』
『んっんんっ』
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ
僕の純粋な心はまだ残っている筈だ。
こんなことで、こんな奴の体で、
感じるわけがない。
嘘だ、嘘だ、嘘だ
『んっ、んっ、』
それでも、擦れる所はだんだん熱くなった。膝が動くたびに、声が漏れた。
僕に対抗する力などもうなかった。