触って、七瀬。ー青い冬ー
第16章 薔薇戦争
「…番犬をやめさせるか、躾をしなおすか」
佐藤はおとなしく答えた。
「うぅん、恐ろしく真面目な回答やな。
ちっともおもろない。少しは頭使え」
佐藤は何も答えず、代わりに手を差し出した。
「ゼロが渡した代品は」
「…これや」
立花は腕時計を見せた。
「これは…」
佐藤はその腕時計を目にした途端、声を上げ
奪うようにそれを手に取った。
「不覚にも…その腕時計のことを忘れとった。
あのゼロ番の男がそれを持っとるなんぞ、
あんまりにも突拍子があらへん」
佐藤はその腕時計をじっと見つめた。
立花の後ろのモニターには、まだ泣き叫ぶ少女の痛ましい姿がまざまざと映し出されていた。
「佐藤、手前には泣きの一回、チャンスをやる。
その腕時計を持ってきたあのゼロ番の男が七瀬の坊ちゃんをどこやったか、突き止めてみい」
佐藤は腕時計をつまんで目の前に上げた。
「立花さん、いつになく優しいですね」
立花はひひ、と笑った。
「今が辛抱する時や。
裏切り者が消えたら、今度こそ坊ちゃんはウチの
“家族”になる」
立花の笑顔は冷めていった。
佐藤は口の端で哀れむように笑う。
「…家族、ねぇ」
佐藤の言葉も聞こえていないかのように立花は振り返り、モニターを見た。
また新しい少年が、ステージに引っ張り出されてきた。よれた黒いパーカーのフードをかぶり、俯いている。スポットライトが彼を照らす。
「よう来たな」
立花は、モニターに向かって呟いた。
少年は長い足であぐらをかいてステージの下の客を見渡した。
「ほお」
食いついた立花の背中を見て、佐藤は手を上げた。モニターの音量が再びあげられる。
流れてきたのは、係員の怪しげな声だ。
《さあ、この子もまた上玉でございます。
滅多にお目にかかれない高身長に
整った顔立ち、筋肉質な体も美しい》
「…もっと見たい」
立花が画面に近づいて呟くと、
その俯いたままの少年にカメラがズームしていく。
「…!」
カメラにフォーカスされ顔を上げた少年が、
にっと歯を覗かせて笑った。悪魔のように。
《さぁ、オークション開始…》
「待て、こいつは!」
《あ、おい、何して…》
少年は立ち上がり、横にいる司会の男からマイクを取り上げて言った。
《1日1000万から。異議は認めない》
ーーー