触って、七瀬。ー青い冬ー
第16章 薔薇戦争
ーーーー数日前
「こら、高梨さん!」
「あーあ、見つかったか」
そう言って振り返ったこの子は高梨伊織。
今のところ、この病院内で1番の問題児。
「全く…見つかったか、じゃありません!
早くあなたの部屋に戻りなさい。
そうじゃなければ親御さんに連絡します」
「あー、それは勘弁して」
見た目は高校生には見えないが、
17歳の高校二年生で
もう三年生になろうとしているそうだ。
首の怪我を治療中。
深い傷で出血も酷かったので念のため入院してもらい、経過を観察している。
「菅野さんももうちょっと寛容になってくれると嬉しいんだけどな」
高梨くんはとても社交的で…社交的すぎるときもあるけど、ナースや患者さんとはもう友達みたいだ。
「寛容にって、いつも要求には応えてあげてるでしょ。これ以上働けっていうんですか?
患者さんは高梨くんだけじゃないんです!
お茶とかおやつとか、言われたらもっていってあげてるし。
そんなの本当はしなくていいことなんだから…」
そう、高梨くんはとてもわがままだ。
ナースコールを押して、なんでもないことに私を呼びつける。
あれは手術後間もない入院初日のことだ。
さっそくナースコールで呼び出された。
…
《失礼しま…ッ!!》
扉を開けると、そこには美男子がいた。
ベッドの上で、ぼーっと空を眺めている。
あ、すごく綺麗な横顔…睫毛長っ…
カッコいいというより、美しい、尊い…???
き、緊張して話せないッ!
看護師になっていつのまにか25歳…
ここまでトキメいたのはいつぶり?
もしかして運命!?
いかんいかんこれは仕事、
早く行きなさい菅野朱莉!
《あ、あの、どうかなさいましたか…?》
恐る恐る近づいて異国人にでも話しかけるように聞いた。
するとその睫毛がふっと揺れて
瞳は焦らすようにゆっくりこちらに向けられた。
《っ!》
首を絞められたみたいに息が止まった。
その目が私を見ていた。
見ればみるほど嘘のような顔だった。
ただ綺麗なだけじゃない。
細くて長い目の中には真っ黒な影が隠れていて
無防備に開いた赤い唇の隙間から覗く真白な八重歯は鋭く、動物的だった。