触って、七瀬。ー青い冬ー
第3章 男子高校生の性事情
『認めろよ、お前は男が好きなんだろ?』
『んっんんっ』
膝の動きは、ゆっくりになった。
今度は優しく撫で上げるように、
僕を慰めるように。
さっきまでの荒さが嘘のように。
『んっ…んっ」
『おい、口』
香田が言うと、口を押さえていた奴の手が離れた。リーダーはまだ香田だった。
『はぁ、はぁ』
苦しかった。解放された。
香田は少しでも僕に同情したのだろうか。
『声出せ』
香田が言った。
『嫌…だ…』
『代われ』
香田は目の前の奴を押し退けた。
背を曲げて僕の顔を覗き込んだ。
香田は飛び抜けて背が高かった。
それに対して僕は、あまりに弱かった。
『お前の本性を見せてやれよ』
僕は突然、尻尾を掴まれたように息を飲んだ。
僕の本性…
香田がわかっていて言ったわけではないと思った。でも、僕はとても怖くなった。
もし、僕の性事情が誰かにバレてしまったら、どうなってしまうんだろう。
誰にも言わなければいい話だ。
僕は幼い頃から快楽を知っていたなんて言わなければ。
もし言わなければ、誰も気づいたりはしない。
それでも僕はとても怖かった。
もし、なにかの間違いで知られてしまったとしたら。
僕は本当に、純粋な子供時代なんてなかったということを肯定することになる。
その事実が、僕の中の秘密ではなく、
他人の中でも事実に代わる。
『急に黙り込んでどうしたんだ?
さっきまでの威勢はどこいった』
香田は目立ちたがりで、負けず嫌いで、バスケも喧嘩も強くて、普通より整った顔に高い身長がくっついて、一部の女子にはもてはやされていた。
何でももっているこの男が、どうして僕なんかに構うんだ。
ほっといてくれればいいじゃないか、
わざわざ僕を貶めなくたって。
元からこっちには、勝つ気も、戦う気もないんだから。負けていて、それが当たり前なんだ。
『静かになったら面白くねぇんだよ、なぁ七瀬』
香田の手が白いシャツの下に忍びこんだ。
腹のあたりをくすぐるように、指先が滑った。
『っ…』
香田は僕が苦しむ様子を楽しんでいるようだった。香田は僕の耳元で囁く。