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触って、七瀬。ー青い冬ー

第17章 My Man



美しさがあれば、それだけあれば


人は生きやすくなる



優遇され、評価され、注目される


今の私の顔じゃ手に入らないものが

簡単に手に入る



たった数センチ、数ミリ

目が大きければ
鼻が高ければ
唇が薄ければ
顎が小さければ


鏡を見るたび涙が出た


親を恨んだ


こんなに醜いのにどうして

どうして




私の力ではなにも変えられない




顔が良くないなら

努力をすれば

性格をよくすれば、

はたまた

仕事ができれば、

お金があれば、

なにか特技があれば…?

それで顔の醜さも補える…?





うるさい




私は可愛く生まれたかった


私は何もしないでも
ありのまま可愛くありたかった


不細工な自分を隠すような

惨めに思うような

そんな経験をしたくなかった


苦しい思いを初めから知りたくなかった


この先、
整形でもなんでもして顔面が良くなったって


私が虐げられたあの過去はいつまでも消えない



私は醜かったという過去はいつまでも



ありがとうと笑った彼が

私のことを受け入れられないと内心思っていた

その事実も
彼の優しい嘘も






だから私は怖い

本当に怖い




視線が 人の本心が 私の外見が


全てが怖い



みんなが私をあざ笑っている

私の顔を笑っている…


ーーー



「あはははははははは!!」


騒がしい店内に響き渡るのは
男女の笑い声と
ジャズ調のBGM、
カランカランと鳴るグラスの中の氷


「もおーやだあ!
千尋ってばまた馬鹿にしてるでしょお?」

眼鏡で後ろに髪を一つ結びにし、
少し若作りをした30代くらいの女性。


「してねぇよ!ただ面白かったからさ」

それを相手にするのは馬鹿に足や手が長く
髪を金に染めた男。

目に優しくない黒と金のストライプが入ったシャツにグレーのカラコン。

白い歯を見せて大きな笑顔をつくり、
豪快に酒を流し込む。

顔は中の上ではあるが目立つ顔立ちではない。

もし一つ長所があるとすれば
馬鹿みたいにポジティブなところだろうか…

ただ、ポジティブというのは人前だけで
実際一人になればネガティヴを通り越して
ある種の病気ではないかとも思える


「っあああ!」

ドン、と机の上に拳を突いたのはその男だ。


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