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触って、七瀬。ー青い冬ー

第17章 My Man



「僕の本当の両親なんて、
本当はどこにもいなかったんだ」


僕は何を探し求めていたんだろう。

本当の、ってどう言う意味だった?

僕を育てた、僕が知ってる両親は
もし血が繋がっていなかったら
僕は彼らをなんと呼ぶつもりだった?


僕はきっと真実を否定したかった。
ただそれだけだ。

両親である彼らが僕の理想とは違うから
だから彼らを拒絶して、
両親じゃない何か別の枠に押し込みたかった。

ただそれだけだ


きっと、この世に僕が探している
【本当の家族】なんてものはいない。

優しくて暖かくて居心地が良くて
いつでも腕を広げて待っていてくれる
何をしても笑って許してくれる

そんなお伽話みたいな都合のいいもの

そんなものはどこにもない


わかってはいるけど



「…立花の倅も、君も、私も似た者同士だね」

「え?」

先生はまた笑った。

「いや、なんでもないよ。
とにかく君は早く風邪を治したらいい。
それから次の隠れ場所を探そう。
このビルじゃすぐに見つかるだろう」

先生は立ち上がって言った。

「はい」



まだ、誰かを探している


………



「っ…うっ、う」


トイレの手洗い場、私は涙を流していた。
鏡を見つめたまま。

「うぅ…」

鏡の中の醜い顔


《菅野さん》


高梨伊織の顔は美しかった

私にはないものを持っていた


怖かった

もし彼が私の顔を陰で笑っていたら

心の中で私を醜いと貶していたら?


彼はそんな人じゃないなんて、わかってる

だけど思わずにはいられない


今すぐ顔を真っ黒に塗りつぶしてしまいたい

この醜い顔を彼に見せるくらいならいっそ



赤く腫れた目は小さく
鼻は横に大きい

唇は分厚くて輪郭は四角い



こんな顔じゃ高梨君にも誰にも見てもらえない

私が彼らに愛されることなんてない

たとえ見かけだけの愛でも欲しかった

でもそれさえも叶わない

ああ、もういっそ死んでしまいたい…



「はぁ?何言ってんのよ、あんた馬鹿なの?」



聞こえたのは若い女性の声だ。
電話中だろうか…
ここは病院内のトイレ、誰が入ってきてもおかしくはない。

こんな泣き顔見られたくない。

彼女が入ってくる寸前、個室に駆け込んだ。

彼女はやはり通話中だった。









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