触って、七瀬。ー青い冬ー
第17章 My Man
「翔太さんってばあ!」
「俺はあんたらの味方につけばいいってわけ?
ふーん、で?報酬もメリットもないなら俺が味方する理由はないと思うんだけど」
「…あいつとはもう関わらないことにしたんだ。
やっぱりこれ以上あいつを苦しめるべきじゃないって…」
「…あの頃と変わらないな、本当に。
そうやって人を揺すって利用して
使い捨てるところも。」
「ねぇ、なんで無視するの?したくないの?」
「…俺はやっぱり腐ってもあんたらに手を貸したくはない。俺はあんたらと違って教養もある。
あいつもそうだ。
騙すのにも釣るのにも苦労する相手だってことは覚えておいたらいいんじゃないの。
じゃあ」
「ねぇ、今の誰?」
「…もう俺には関係ない人」
翔太は青年にキスをした。
……
-もう3月だ。
あれはいつのことだったろう。
多分、その頃にはもう随分僕たちは仲良くなっていたんだ。
僕たちはいつも教室の窓際、隣の席。
「七瀬、教科書」
高梨が無表情で言った。
高梨は長い足をだいぶ机の下からはみ出させながら、僕の方を見ていた。
最初の頃と比べて、他の人と僕に対する態度が明らかに変わっていた。
高梨はいわゆるクラスメイトには愛想が良くて
常に親しげな雰囲気を醸し出し、口調も割と丁寧な方だった。
しかしこの頃から、僕に対してはなんだか投げやりな口調になってきた。
「教科書」
高梨は机の上に背中を丸めて頬杖をついて、明らかに不十分な言葉も補足しようともせずに
《教科書》とだけ吐き捨てる。
言わんとしていることはわかる…が、
それが人に頼む態度か。
しかし、こんな授業中ではなく
休み時間に人前で僕と話す時には僕にも
《キラキラ高梨》が対応してくれるのだから、
僕は彼の本心も僕をどう思っているのかもわからない。
今だってわからない。
「また忘れたんだ…。何回目?
いくら現代文が嫌いだからってさあ」
そう文句をぶつくさ言う僕に高梨は目もくれず、
机を軽々と持ち上げてストンと僕の机に並べて置いた。
先生の声がどこかのページを開くように、と言った。
「何ページって言ってた?」
全く、高梨のせいで先生の話に集中できない。
ページ数すらも聞き取れなかった。
高梨は机と机の間に置かれた重たい教科書に手を置いた。