触って、七瀬。ー青い冬ー
第17章 My Man
「んー…」
その時、何が起こったんだろう
高梨が体を横に傾けて僕に寄りかかってきた。
「わ、重」
「ん」
高梨が頭を僕の肩にもたれた。
ふわり、とまた甘い香りが強くなって
硬い髪の毛が首筋に触れた。
「高梨、重い…」
苦し紛れにそう言って高梨を押し退けようとしながら、体の熱が上がっていった
高梨の息が首のあたりをかすめて
肩が跳ねた
本当に、馬鹿梨だ
なんなんだ
「えー、
じゃあ高梨が隣と仲良くお眠りのところで」
先生がこちらを見て皮肉っぽく言った。
皆んなも僕らの方を振り返って見た。
ああ!見るな!!穴に僕を埋めろ!!
僕は何もしてないのになぜこんな辱めを…
「うーわ、いちゃついてんじゃねぇよ」
「寝顔可愛いー」
この頃はまだあの忌まわしい噂が広まる前だった。
こんな生温かい反応が返ってくるだけ。
先生がすぐに手を叩いて場の空気を正した。
みんなが前を向いてくれてホッとする。
「はい、前向けー。
先ほどの問題の答えだ。
主人公は何故幼馴染に会いに来たか。
それはまあ皆んながよく考えてくれた通り。
初恋の相手だったから、だな」
…どうしてこうもあっさりと。
言葉にして理由を述べるのは簡単だ。
でも、言葉にすると何かが抜けているような
取りこぼしているような
そんな気分になる。
小説はそもそも言葉で紡がれた文章を
噛んで舌の上で転がして味わって
その感覚を胸の中に落とし込む
その作業を繰り返して繰り返して
楽しむためのもの。
心情を説明するとか理由を述べるとか
そんな読解力テストのためのリトマス試験紙じゃ、
ない
わざわざ美味しかった料理の
どの具材のどの部分がなぜ美味しいのか
どの料理法なのか
そんなものを考えながら食べることなんて
僕にはできない
ただ人間の味覚を喜ばすために作られたその料理に
僕はただ美味しい、と言って敬意を表したい
それなのに国語とかいうこの教科は…!
という怒りをある時の高梨にぶつけたら高梨は
本が本当に好きなんだな
と、笑っただけだった。
「ゆ…き」
肩によりかかる高梨が何か呟いた
「っ!」
驚いたのと息が首にかかったのとで
心臓がドク、と大きく脈を打った