触って、七瀬。ー青い冬ー
第17章 My Man
「よう兄ちゃん」
後ろは緑色の錆びたフェンス。
狭いビルの間、人通りはない
僕は袋のネズミ、いや、アリか、ノミか…
僕に詰め寄る大勢のヤクザとも言えるその男達は
手ぶらのように見えるがきっと何かを隠し持っているはずだ
「よーくここまで走ってこれたなあ?
一晩中雨に濡れて疲れてるだろうに。
もう立ち上がる気力もないだろう」
あははは、と乾いた笑い声が響いた。
僕はフェンスに背中を持たれて座り込んでいた。
一晩中、財布も何も持っていなかった僕は
彷徨って走って気づけば知らない街にいた。
これほど走り回って最後に
こんなビルの隙間に閉じ込められるなんて
「しっかし、本当に上等な出来だ。
ただの商品にするにはちっと惜しいくらいだな。」
ざっ、ざ、と濡れた砂利の上を歩き詰め寄る彼らに
抵抗する方法がなかった
「ほら、顔をよく見せてみろ」
1人の男が僕の顎を持ち上げた。
「ふん、女みてえな顔だな」
顔を背けた。
女みたい、とはよく言われた言葉だ。
ただ毎度その言葉に腹のなかをかき乱されるような嫌悪感と憤りを覚えただけで。
「佐藤さん、本当にこいつで合ってるんですよね?
立花さんとお嬢が探してるっつうガキは」
お嬢…
その男が後ろで見物していた男に呼びかけた。
他でもなく最初に僕が立花薫に会った時、
警官服を着て僕を騙した奴だ。
奴は子分の群れの中に割って入り、僕の前に出てきた。
「ああ?俺が言う通りに追えばそこに必ず可愛い猫が転がってんだよ。俺が立花の番犬と呼ばれる理由はこの鼻にある。どんなに逃げ足が速い猫だろうが鼠だろうが、一度顔と匂いを覚えたら逃がさない」
佐藤は手の中にコインを握っていた。
「やっと会えたな、クソガキ」
「…」
佐藤はしゃがみ、座り込む僕にその手の中のコインを見せた。
「ほら、これがなんだかわかるか?
これはお前みたいな《迷い子》を探すための道具だ。ウチには大勢のガキがいる。
立花の言う《家族》ってやつだ」
家族、と言う言葉は唾のように吐き出された。
「そのガキどもはよく迷い子になる。
ある時突然、何を血迷ったか自由を求めてウチから飛び出す。そして道に迷って」
佐藤が僕の耳たぶを触った。