触って、七瀬。ー青い冬ー
第17章 My Man
一人が香田に詰め寄るが、佐藤は香田の顔を一度見たきりすぐに背を向けた。
「見覚えねぇ顔だ。お前らで片付けとけ。
俺はこっちのガキを早いとこ立花に返さねぇと」
「おっさん」
「あ?」
「連れてくなら俺も連れてけよ。
あんたらんとこの家族にしてくれんだろ?」
「…なるほど、うちの家族に?
それにはちょっとした審査が必要で、俺には君を受け入れる決定権はない。悪いがまた今度、日を改めて来てくれ」
「はーあ、俺も軽く見られたもんだなぁ。
まあ確かに、そこのチビとどっかの成金野郎に比べたら俺は華やかな見かけじゃあねえかもな。
分かった、あんたらのお仲間になるのは諦める。
そのチビも持ってけ。」
「香田、何しに来たんだよ…」
「そうか、それじゃあ」
「ただ、一つだけ返して欲しい」
「返す?たった今会ったばかりで何か借りた覚えはないが」
香田は佐藤のジャケットのポケットを指差した。
「そこに入ってるもん、あんたのじゃねえよな?」
佐藤はポケットに触れることなくうなづいた。
「ああ、確かに。しかしこれは客がウチに質入れしたものだ。元々の持ち主が誰だろうとこれはウチで預かっておく必要がある」
何の話をしているのか分からない。
「その客にそれを渡したのは俺だ。
そして、それを俺にくれたのは」
香田は僕を見た。
「七瀬だ」
佐藤は首を傾げた。
「随分ややこしい話を持ってきたもんだ。
つまり、大元の持ち主はこの子だと?」
佐藤が聞くと、香田がうなづいた。
「なるほど?しかし、依然としてこれはウチの所有物だ。これを預けた客が取りに来ない限りは」
佐藤が持っていたのは、懐かしい腕時計だった。
「その客はもう死んだだろ?あんたらが殺した。
だからあの人は、葉山秋人はもう取りにはこない。
それはあんたらのせいなんだから、
代理人にでもそれは返すべきじゃねえの?
最低限の損害賠償としてさ」
「君にも一理ある。
だがしかし、元はと言えばゼロ番…葉山秋人はうちの人間で客ではない。
その上七瀬夕紀はあくまでこの時計と引き換えに貸し出すという契約で、葉山は貸出期間を大幅に過ぎても貸出品を返しにはこなかった。
つまり先に契約を破ったのは葉山で、その上立花を裏切った裏切り者だ。
そんな罪人に補償も賠償もあるか?」