触って、七瀬。ー青い冬ー
第18章 白の孤城
「あんなぁ若旦那。あんたと七瀬の坊ちゃんとがどんだけの仲なんか知らんけど」
立花は踵の高い靴で音を高く鳴らしながら床に座る俺に近づき見下ろした。
「自分、誰のおかげで今生きてると思うとんの?」
その目の見透かすような、俺を蔑むような、
全てを馬鹿にしたような色はやはり
吐き気がする程気味が悪かった。
「…もう全額返済しただろ、利子もつけて。
昔の話を掘り返すなよ」
ぷっ、と吐き出すように笑った立花はしゃがみこんで俺の目を覗き込んだ。
「金の話してるんじゃないよ」
息を飲んだ。突然、猫にでも語りかけるような
柔らかい声がした。
その目も、笑っているように見えた。
あの頃の立花が戻ってきたみたいだった。まだ、まともだった頃の奴が。
「俺のおかげであんたは生き延びた、いや。
あんたら兄弟は、か」
…立花は取り立て屋のうちの一人だった。
白塔組は様々な金貸しを転々として最後に行き着いた組織で、立花はそこの組員かつ次期後継者だった。
立花は兄貴と同じくらいの歳なのに、当時既に耳にピアスを開けてうちの扉を叩いていた。
そして他の取り立て屋とは少し違った。
歳の近い俺たちを不憫に思ったのか、
あの頃の立花はうちの前で他の取り立て屋を追い払ってくれていた。
白塔組の後継者だと分かると、相手は面白いように怯えた顔をして帰っていった。そんな立花と俺達はちょっとした知り合いくらいに心を許しあっていた。
金を借りている身でそれをまともに返せる見込みもまるで無かったが、まだ一人の従業員に過ぎなかったあの頃の立花にとっては、俺がはした金を返そうが返さまいが大した問題ではなかったんだろう。
「お前の親切には感謝してたよ。でも、それとこれとは別の話だ」