触って、七瀬。ー青い冬ー
第18章 白の孤城
「別の話ってことはないだろ?俺があんたの家のひっつき虫を追い払わなかったら多分、家ん中で腐って二人とも飢え死にしてた」
「…結局お前は七瀬を返さないってことか」
「サキちゃんって、知ってる?」
「…は?」
「七瀬夕紀の婚約者。」
「は…はぁ?誰だよ聞いたこともない」
「俺はさぁ、実はずーっとサキちゃんが好きだったんだ。でもサキちゃんはどーおしても七瀬夕紀と結婚したいって言うからさ。
でもその七瀬って奴がサキちゃんのこと振りやがったってんで、サキちゃんの母さんが俺にその子を説得してくれないかって。俺の気持ちとか誰も察してくれないんだからひどいもんだよな。
でもまあ仕方ない、俺が捕まえて説得してやろうかーと思ったんだけど」
「じゃあお前、七瀬のことはどうするつもりだったんだよ!あんなオークション会場にまで連れ出しやがって」
「それは単純に、いずれウチの組織の一部になってくれるんだったら予行練習しておいた方がいいかと思ってね。知ってる?コレ、
ウチの大ヒット商品なんだよねー」
カサカサ、と軽い紙包みが俺の前で振られた。
中身は恐らく粉末状の薬物だ。
「ウチの子にはこれを一晩の報酬としてあげてるんだ。これをあげると皆喜んでくれてさ」
報酬というのはつまり売春の、ということだろう。
「それ…まさか七瀬にも」
立花はその口調や表情がまるで昔のように優しいのに、行動に関しては狂気の沙汰だ。
「もちろんあげたよ。ほら、覚えてるだろ?
最初に俺があの子にあって…あんたが救出しにきた夜。随分暴れてくれたじゃない」
「そんな危険な薬を…!」
「大丈夫だって。中毒性は確かに高いかもしれないけど、ひどい錯乱状態になったり幻覚見たり、食欲がなくなったりする程のものじゃないから。
ただ少し気持ちよくなるだけ」
「信用できるわけないだろ」
「じゃああんたも試してみるといい」
立花は紙包みを簡単に破いて俺の顎を掴んだ。
「やっ、めろ!」
立花は俺の口に指をねじ込んだ。
「うわぁ、あんたも落ちぶれたね。
赤西組の若旦那ともあろう男が俺にこんな媚薬飲まされるなんて」
「っぐ、んん」
「いいね、やっぱりあんた向いてるよ。
凄く色気がある」
「ん…ん、…」
粉とジュースは、甘くて苦かった。