触って、七瀬。ー青い冬ー
第18章 白の孤城
…
婚約者、だって?
ありえない。
第一、七瀬は裕福で眉目秀麗だとは言っても
単なる一般人でしかないのは確かで…
いや、そう思い込んでいるのは俺だけで
あいつの正体はもっととんでもない…
とんでもない、何だ?
駄目だ、頭が回らない。
コレはきっとあの薬のせいだ。
あの薬の…
…
「起きなさいよ、ちょっと!」
「おい、七瀬!」
「…」
返事がない。
3人は薄暗い部屋の中に閉じ込められていた。
それも、それぞれが三面の向かい合った壁に手を繋がれていて文字通り身動きも取れず、できるのは声を上げることくらいだった。
目を覚ましていたのは香田千尋、木村千佐都の二人だけで七瀬夕紀は未だ真っ白な顔で目を開けようとしなかった。
「おい!…まさか、こいつ死んだんじゃ」
香田は冷や汗を流しながらお化けでも見たように顔を青白くした。
「はぁ?バカじゃないの?この組織が何のために今まで動いてきたと思ってんのよ」
木村千佐都は気だるげに壁に背中を持たれていた。
「そりゃあ、……何でだ?
考えてみりゃ、俺とお前を連れてくる意味はなかったんじゃないか。だって俺らは確かにこいつと高梨のアホを助けようとはしたし、俺は葉山秋人の代わりにってことでここに連れてこられた。
でも、特に組織の秘密を知っちまったわけでもないし捕まえたところでどんな利益があるんだ?
俺があの人の代わりになれる程使えるのか?
特に千佐都はただの女子高生だし、
狙ってたのは七瀬だけだろ」
はぁ、と千佐都は小さくため息をついた。
「知らないの?ここは孤児とか家族と縁を切って身寄りがないような人間を集めて、面倒見る代わりに体を売らせるっていう悪の組織なの。
だから私達みたいな道を外れかけてる人間は捕まえておいて引き込もうって魂胆なのよ。
いずれ私達も他に生きていく場所がなくなって、ここに頼るだろうって見込んでね」
「いや、俺は道を外れかけた記憶は…」