触って、七瀬。ー青い冬ー
第18章 白の孤城
千佐都は香田には構わず続けた。
「本当に馬鹿みたいだけど…
もう無駄なんだって知ったら、どうでも良くなって。ただ、ここまで2人を追い込んだのは私だし、
何か一つくらい罪償いしておかないとまたバチが当たるかもしれないって」
千佐都がこれ程弱気になる所を見たのは初めてだ。
「バチが当たるとか、そんなん気にするタイプだったんだな」
千佐都は呆れたとでも言いたげに首を振った。
「もちろんそんなタイプじゃないわよ。でも、ある時からどうしてもそんな風に考えちゃう」
「…いじめのこと?」
七瀬が聞いた。
「なんで分かったの?」
何でかなと七瀬は言った。
「でも分かるよ。
僕もいじめられたことは多々あるけど」
「…悪かった」
香田が苦しそうに声を振り絞った。
「もういいよ。ありがとう、助けてくれて。
腕時計まで」
香田は首を振った。
「え?待って。あんた七瀬夕紀をいじめてたの?」
「もう傷を抉るな…」
「ふーん、あんたって本当にバカなの?」
「返す言葉もねぇよ…」
トドメを刺され、香田はうなだれた。
「僕もあの頃、いじめられてた時はバチが当たったんだと思ったんだ。いつも心の中で、周りの人間を侮蔑してた。軽蔑してた。特に香田みたいなタイプの人間のことを」
「まあ、されても仕方ねえかな」
「でもさ、やっぱりいじめられてる僕が悪いって考えはちょっと違うよね?僕がどれだけ内心香田を蔑んでたって、それは香田のいじめを正当化する理由にはならないよ」
《いや、いじめる側が100%悪い》
「伊織も言ってた…」
「そう。だからバチが当たるかもなんて怯える必要はないんだ。これから、そんな風にバチが当たったなんて思わなくていいように生きていけば」
七瀬は言いながらうなづいた。
自分に言い聞かせているように。
七瀬の言葉を正面からぶつけられた千佐都は
何か反論すべきだと言う自分を抑え、
倒れこむように背を曲げ、頭を下げた。
「…ごめんなさい。なんて…今更だけど。
今回は本当に反省してるって信じてもらえる?
流石にやりすぎだってなんとなく気づいてはいたの。でも、それくらい」
「それくらい高梨が好きだったから仕方なかったって?」
香田は苦々しい顔をして言った。
「…」
七瀬は黙って香田を一瞥してから、
千佐都の言葉を待った。
「…違う。」