触って、七瀬。ー青い冬ー
第18章 白の孤城
「それなら」
立花はまるで、その言葉を何年も用意していたように言い放った。
「あんたが身代わりになればいい」
…
「高梨!」
その声に、重かった頭が勢いよく上がった。
扉から飛び入って来た七瀬の顔はいつにも増して
蒼白で、まるで俺が死に際にいるように必死で心配そうな顔をしていた。
「…七瀬」
その顔を見て思わず安堵したが、
すぐにその柔らかい感情も消えてしまった。
体の熱がまた上がった。
「高梨、これ」
七瀬が手に持っていたのは、鍵だった。
「…鍵?」
七瀬はうなづいて、俺の後ろに繋がれた手を見た。
「その手錠、外さないと」
「どこで…」
「立花さんがくれたんだ。一緒に帰ろう」
七瀬は俺の後ろに回った。
「立花が?」
そんなはずはない。
タダで俺と七瀬が帰される訳がない。
ガチャ、と鍵の音がする。
「何か、他に言われなかったのか」
「言われなかったよ。大丈夫だから」
七瀬の声が、少し上ずった。
ガチャ、と手錠が外れた。
ようやく体は自由になったが、
開放感も何も感じなかった。
嫌な予感と、体の中に広がる痺れるような感覚に襲われた。
「早く出よう、高梨」
七瀬は俺を諭すように言って、膝をついたままの俺に手を差し出した。
俺は黙ってその手を取った。
「手、熱い…熱でもあるの?」
額に氷のように冷たい手のひらが置かれた。
心地いい白い手
気がついたらその手を掴んでいた。
《あの白い肌は、どんな香りが》
「高梨?やっぱり熱あるって」
《あの声は、どんな風に》
もう、自由だ
高梨の目は炎が揺れているように熱く
闇のように黒かった
どんな光も吸い込んで逃がさない、
あの時のような目が僕を惹きつけた
「た…」
名前を呼びかけた時、熱い唇が僕の声を遮った。
「ん、っん」
直ぐにその熱が舌を通じて僕にも伝わった。
熱く大きい手は僕の背中に回り、
脇の下から腰を伝った。
「っあ、…っんん」
どうしてこんなに熱いんだ
「…」
…いや、七瀬が、冷たいんだ
「高梨…?」
…駄目だ、これじゃまた
「どうしたの」
七瀬が俺の目を不安そうに見つめ返した。
その目は寂しそうに揺れた。
俺はその冷たい唇も手も、手放さなければ