触って、七瀬。ー青い冬ー
第18章 白の孤城
「七瀬、全部聞いたんだろ?」
七瀬の表情が固まった。
「…何を、」
すぐに否定はしなかったが、その目は口よりも物を言う。
「七瀬には婚約者がいて、その子と結婚させられる。その上で立花の元で働かせられる…
もちろん俺と逃げることもできないわけじゃないだろう、でも」
でも俺は君を守り続ける力がない、なんて
「僕は逃げないよ」
「…え?」
七瀬は俺の手を掴んだ。
「高梨を置いて逃げない。
だから先に、高梨は逃げて。
僕は後から追いかけるから」
嘘だとすぐ分かった。
七瀬はここに残るつもりだ。
俺を立花が追わないように、
自分を売ろうとしている。
…2人でいることすら、こんなに難しくなるなんて
「俺が代わりに働けば、七瀬は結婚はさせられたとしても体が傷つくことはない。俺が身代わりになって金さえ儲けられれば立花は満足する。
本当はあんな婚約だって認めたくない。
でもそれを阻止する力は、俺にはない…」
薬のせいだろうか
また頭が痛くなってきた
あの日のように七瀬の手を引いて
逃げよう、とどこか遠いところへ行けたらいいのに
だけど今はその手を引いてどこへ行けばいいのか
わからない
「ごめん…」
こんな風に謝るしかできないなんて
「大丈夫だよ。僕は大丈夫だから」
七瀬は笑っていた。
「…っ」
七瀬は笑ってみせたのに、俺はその笑顔に合わせる顔がなかった
…嘘だと言って欲しかった
こんな完璧な笑顔を作らせてしまうなんて
俺の前でだけは、いくらでも泣いて
弱さをさらけ出してすがりついて
俺がいないと生きていけないって
そう言って欲しかったのに
俺は、馬鹿だ
「…ごめん、七瀬」
何故、もっと早くに気がつかなかったんだろう
こんな風になる前に
もっと早くに七瀬とどこかへ逃げていれば
遠い国へ逃げていればよかった
七瀬を守るためなら
七瀬が望まなくても
もし、七瀬が拒んでも
俺がするべきことは決まってる
「わかった」
俺は七瀬の頭を撫でた
「一緒に逃げようか」
七瀬の顔が明るくなった
その頬を温めるように手を添えて
また、キスをした
このキスに嘘はない
最後にはふさわしい
美しいだけのキスを