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触って、七瀬。ー青い冬ー

第3章 男子高校生の性事情


眼鏡をかけると、香田の顔が見えた。

香田は何かを隠しているようだった。
それが何かはわからない。

『っくしゅ』

身体が冷えるのを感じた。
この日は冬の日だった。
次の日には雪が降り始めた。

香田は自分の着ていたブレザーを僕に投げた。

『…ふざけんな』

僕は自分の口が勝手に動いたのに少し驚いた。

自分に投げられたブレザーを香田の足元に投げ返した。

『ここまでやっておいて何なんだよ。
僕がそんなに惨めか?
お前が全部やったんだろ』

僕は声が震えていた。
寒さか、怒りか。

僕はかじかむ手でシャツのボタンをとめた。こういう時に限って、手は氷みたいに動かない。




『…悪かった』




僕は自分の耳がおかしくなったと思った。
僕はこんな幻聴を聞くほど、こいつの謝罪を求めていただろうかと思った。


『…は、何言って…』

香田は額に手を当てた。


『ここまでするつもりはなかった。
それでもどうしても、悪いと思っていても止められなかった。今までも』

香田は頭がおかしくなったに違いない。
僕を精神的にも身体的にも追い詰めて、
苦しめて、それを見て喜んでいた奴が、
急に改心して謝るなどあり得ない。

もし、万が一本当に悪いと思っていたからって、それがなんなんだ。僕がこいつを許すことなど、死ぬまでないだろう。

人生でもっとも僕を苦しめたといえる人間を誰が許すというのか。

香田が本当に悪いと思っているはずがなかった。もしそうなら、もっと早くにやめるか、謝っていたのではないか。
そもそも、悪いと思うような奴はいじめなどしないだろう。


『…言い訳してんのかよ。
今更謝ってどうしたいんだよ』

僕はもう、声を荒げる気力もなかった。
ただ、混乱しながら、香田の言葉に腹を立てた。

『お前が正直だったから、羨ましかった』

香田は言った。

『でも俺は常に嘘をついて生きてきた。
他人にも自分にも』

僕は呆然と香田の話を聞いていた。

『そんな自分が嫌で、お前にぶつけるようになった』

『だから許せって?』

『許せとは言わない。でも、謝りたかった。俺の言ってることの意味がわからなくてもいい。…それは俺のせいだ』

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