触って、七瀬。ー青い冬ー
第19章 夢色の雨
「香田?香田千尋のことですか?」
八霧はもちろんと頷いた。
「香田君って今、葉山さんの代わりに役員になってるでしょ。それで聞きに言ったら教えてくれた。寧ろ僕にどうにかしてほしいって頼まれちゃってさ」
どうにかって…あいつも適当すぎる。
そもそもこの八霧が本当に味方なのか…
「何をどう頼まれるんです?」
まともな答えが返ってくるとは思えないが。
「サキと七瀬夕紀君の婚約を破棄させる」
八霧がふふんと誇らしげに言った。
「はぁ…なるほど?」
「何?そのぬっるい反応!もっと喜びなさいよ!」
ずい、と顔が迫ってきた。
「い、いや…それは有難いですけど」
でしょう?とまた得意げな八霧は突然切り出した。
「ただし条件がある」
「またこれか…」
「君、僕と付き合って」
「はあ?」
冗談かと聞く前に、今まで話してきたこと全てが冗談のようでもあった事に気づいた。
「…あんた、そんなことのためにこんなとこまで潜入して教育実習生のフリまでして来たんですか?
そこまでしてなんで」
「なんでって、サキは僕の妹だからだよ。
で、せっかく頼まれた事だからついでにご褒美も貰っちゃおうってね。
だけどもし万が一この計画が失敗してサキが結婚なんて、それもまだ17歳でなんて…僕は許さないからな!」
なるほど、
「…妹、ですか…」
これは確かに、本当の味方だ。
にこ、と元気に笑ったその顔に
七瀬の気だるげな目が恋しくなった。
…
「夕紀君!」
「あ…サキちゃん」
サキちゃん、それは僕の幼馴染だった。
しかし、その彼女は今、婚約者になっていた。
「はい、コーヒー。ミルクいる?」
「…要らない」
「そう、じゃあこのままどうぞ」
「ありがとう」
そこはまるで宮殿のような広いダイニングで
僕たちはそこで優雅にティータイムを過ごしていた。
ミルクはいらない、と言ってみたのは少し成長しなければと思ったからだ。
甘い物が好きだからって大人じゃないわけじゃない。そういうことじゃなく。
僕も、ブラックコーヒーを好きになりたかった。
そして氷を何個も入れて、一気に飲み干せるくらい。
「…」