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触って、七瀬。ー青い冬ー

第4章 仮面の家族

……

その日はとても寒かった。




「おはよう、七瀬」

高梨が隣に座りながら言った。
しばらく席替えはしないと、先生が言った。

「…」


「顔色悪いけど、昨日ちゃんと寝た?」


僕は、普通に話しかけてくる高梨に戸惑った。安心したというのはあったけど、
どうしてもすっきりしない。

そして、今の高梨は【学校モード】だ。
口調が違う。


「大丈夫」


僕は前のように無愛想な返事をした。


「そっか」

高梨はやたら明るい笑顔を見せた。


「高梨君!」

女子の声が廊下から聞こえた。
僕は驚いて、入り口で手を振るその子を見た。

「あ、千佐都」

「生徒会の件で、ちょっといい?」

「いいよ」


高梨はその子と教室を離れた。


「千佐都ちゃん、可愛いよね」

「スタイルいいし顔も可愛いし、性格もいいし」

「絶対モテるよね〜、いいなー」

女子の会話は情報源になることもあるが、
大抵の場合、嫉妬か嫌味だ。それを前面には押し出さず、ちらつかせるあたりが僕は苦手だ。


「高梨君くらいの人もあーやって気軽に呼べちゃうんだもんね」

「普通無理だよね、自分に自信ないとさ」

「まあ実際、お似合いって感じだけど」

僕は聞くに耐えなくて窓の外を見た。
僕はやっぱり、高梨と一緒に居ていい人間じゃないのではないか。
そんなことを考え始めると、僕は止まらなくなる。


【高梨には言うな】


あの電話の事を思い出した。

相手は誰か、大体予想はついた。

一体何をするつもりだろう。


高梨が戻ってきた。女子の会話もそこで終わった。


「七瀬、今日の放課後空いてる?」


「ごめん、今日は用事があって」

僕はどうして、よくわからない用事の方を優先したのだろう。

「…そっか。わかった」

高梨が僕を誘うなんて、奇跡に近い事なのに。これは当たり前じゃないのに。



「…痣は治った?」


高梨が言った。

「まだ包帯取ってないからわかんないけど、多分大丈夫」

「医者行けって言っただろ」

高梨が少し強く言ったので、僕は言い返した。

「高梨こそ、足は」

「行ったよ。2週間もすれば完治するらしい。ヒビもなし」

「…良かった」

僕が言うと、高梨は少し黙って聞いた。

「…用事って何?」

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