触って、七瀬。ー青い冬ー
第4章 仮面の家族
高梨が僕の用事を気にするなんて意外だった。
「大した用事じゃないけど、…友達と会うんだ」
友達、なんて言えたものじゃないけど。
あまり詳しく言うと、高梨に言うな、という命令を破ることになる。
「ふーん、そっか。楽しんで」
別に、言うこと聞かなくたっていいのにな。なんで僕は言いなりになってるんだろう。
「うん」
……
「嘘だろ」
電車から降りると、雪が降っていた。
暗い空から白い結晶が降り、地面を凍らせていく。
もうそんな時期か。
いつもより冬は長くなると、天気予報で言っていた。
僕は眼鏡につく雪を払いながら、駅の前に立っていた。
「…七瀬」
「やっぱりお前か」
そこに立っていたのは香田だった。
周りの人々が香田を見ていた。
香田は180センチ以上あり、顔も悪くはなかった。僕にとっては一番見たくない顔だった。
それでも来たのは、香田との関わりを一切
断つためだ。
高梨が足を怪我したのはこいつのせいだ。
そして、こいつを刺激したのだから、僕も
高梨を傷つけたことに変わりはない。
これ以上、関わっていたら僕はさらに苦しむことになるだろう。その前に早く、全てを終わらせてしまいたい。
「…今日は謝りに来た」
香田は白い息を吐いた。
僕は冷たい息を吸った。
「覚えてるか。
中学の時、お前は僕に謝った。
それで最後だと思った。
でも今回、お前はまたやった。
今度も謝っておいて、
また何かするつもりだろ?」
冷たい風が肌を刺した。
香田は口を開いた。
「今回は高梨が…。
それに、バスケの勝敗も掛かってた。
だから」
「だったら、まず高梨に謝れよ。
高梨は何も悪くないのに、関係ないのに。2週間も練習できないんだ」
2週間と聞いて香田は驚いた。
「…悪かったと思ってる」
「もういい。謝るとか謝らないとか。
どうせまたやるんだろ?
もうお前の言葉は信用できないし、
とにかく関わらないでほしい。
僕はもうお前とは会わないし、
高梨にもそうするように言っておく。
お前と当たらないように試合でも調節してもらうから」
僕はもう関わらない。
「おい待てよ」
香田が僕の手を掴んだ。
「離せ!」
香田の手は驚くほど簡単に僕を離した。
「…もううんざりなんだ」