触って、七瀬。ー青い冬ー
第19章 夢色の雨
お願いかとか命令かとか
どっちだっていいことを
「いち、いち、!」
触っていない前が、いやに反応して
自分じゃ擦れないその場所を
悪魔みたいな使用人もどきに遊ばれて
馬鹿みたいに
「っはあっ、あああっ、あっ」
情けない
だけど体が言うことを聞かなくて
押されるたび反る背中も
もうこれ以上耐えられなくて
「っぐ、…いっ、く、っ…」
目の前真っ白になって
気持ちいい
気持ちいい
長く続く絶頂の余波
甘すぎて濃すぎて噛み締めて耐える
「っんん、んっん」
わけわかんなくなって
震える腰が踊って
全部見られているから
余計に情けなくて
「…聞かなくても分かることは聞くな、と?」
指を止めた桃屋が足の間から顔を覗かせる
「うる…っさい!」
この恥ずかしい体制をいち早くどうにかしたい
この憎たらしい悪魔を早く退治したい
悪魔はあの飴一つじゃ何も変わらないのか
余裕の表情で観察を続けている
じっと静観している
「こっち見んな」
あ、という間に指が抜かれる
見んなと言われた途端に顔を突き合わせてくる
鼻がくっつきそうな程
「っやめ」
顔を背けると耳元に囁く
「涙目のあなたは本当に可愛らしい」
な、な…なんの…つもりだ…
恐る恐る目を見返すと、冷めた目が見ていた
「…なんて、彼に言われましたか?」
彼、だと
「っざけ…な」
なんで今、…ちょっと今
「それ程に彼を想っていながら、認めようとしないのはどうしてでしょう。臆病なのか、自尊心からなのか、意地を張っているのか」
もう、嫌なんだ
向き合うことが
逃げて逃げて逃げて生きてきた人生だから
今更立ち向かうなんてもう、無理なんだ
恐ろしくて、面倒で、息苦しくて
いっそのこと全て投げ出してしまいたいんだ
消えてしまいたいんだ
いつから人生を疎ましがって
いつから人生を楽しまなくなって
いつから全て分かった気になって
いつから好きな人すらわからなくなって
いつから好きなものを嫌いと言い張って
いつから嫌いなものを嫌いと言えず
仕方ないと受け入れて
人生から好きを追い出して
嫌いで埋め尽くして文句ばかり
こんな風に流されるまま生きてしまったから
意思もなく
誰かの言ったことに縋って
「何故、泣いているのですか」