テキストサイズ

触って、七瀬。ー青い冬ー

第19章 夢色の雨



「え…」


涙は雨のように流れる

誰が意図したわけでもなく
風が吹くように、波が寄せるように

だから止める方法を知らない

誰も


「素直に言ってはいけない理由があるのですか」

顔を背けた

「それとも本当にお嫌いですか」

ふ、と思わず笑ってしまう

「本当に嫌いになれたら、いいな」


いい、のかなあ

もう恋愛感情、捨てたいな


だってどうせ

どーせ僕らは一人だし

結婚もできないし

子供も作れるわけじゃないし

一緒になったって家族になれないし

書類では拘束できないし

したいわけでもないが


とにかくな


どーせ

どーせ好きになったっていずれは

すれ違って廃れていくものだし

本当に、恋愛感情なんて気の迷いだし


翔太さんのように
いっそ誰も愛せなければ

楽だったのかな


《やっと気付いたんだ、夕紀が好きなんだ》


翔太さんのあの言葉は本当かな

翔太さんにはもう会えないかな


《本当に愛していたよ》

先生はそう言ってくれたな

その愛は、恋とはすこし違う気がしたけど

愛は恋の先にあるものかな

愛は恋より大きいかな

恋は愛より小さいかな

愛は恋より暖かいかな

恋は愛より苦しいかな


愛はいつまでも消えないかな

恋はいつか冷めてしまうかな


冷めない恋は愛に変わるかな

そしたら愛はいつまでも冷めないのかな

愛されていれば幸せかな

恋していれば幸せかな

どんなに苦しくて辛くて寂しくても

愛する人が愛してくれたら幸せかな


こんな嫌いに染まった人生でも
そんなことが起こるかな

昨日まで大嫌いだった人生が
突然大好きに変わるのかな

そうだとしたら恐ろしいな


そんなものが愛や恋なら

人生は案外簡単で

愛されたもの勝ち

愛されなければ、それでおわり



ああ、そしたら愛せない翔太さんはどうなる

それでも翔太さんは愛されているから

みんなに愛されているからそれでも幸せかな


じゃあ僕は

恋しても愛しても


それは叶わなくて届かなくて

未だに恋人さえ知らない


体だけ慣れていくけど
心だけまだ青いまま


もしいつまでも一人きりで
一人きりで死ぬことになったら


想像もつかないけれど
なんだか寂しいような気がしてくる


もし僕がもっと普通なら

ストーリーメニュー

TOPTOPへ