触って、七瀬。ー青い冬ー
第19章 夢色の雨
男で女が好きで
女で男が好きで
好きになった時、
「ごめん」を言わなくて済むのかな
好きという時
「これは、友達としてじゃないんだ」
を言わなくて済むのかな
体は男なんだけど
心はよくわかんなくて
たまに男の気分でたまに女の気分で
だけど体の性別を変えたいわけじゃなくて
ごめん、わからないかな
こんなに絡まった僕の性
女でもなく男でもなく
ただ僕は僕、僕って言い方もちょっと変なんだ
私でもなくて俺でもないんだ
当てはまるものがないんだ
色々と探してみたよ
俺、が口をついて飛び出す時もあった
僕、が染み付いて気持ち悪くなった時もあった
私、はどうしても口がつまづいて
ねえ、それ以外に何か知らない?
知らないよね、そうだよね
ごめん、変なこと聞いて
ただね、ずっと頭から離れないんだ
性別なんかなかったらどれだけ楽だったかなあって
僕らにオスメスなんかなかったらなあって
馬鹿みたいに考えるんだよ
ほんと
どうにもならないこと
「…それならば、嫌いになったらどうです」
「嫌いだよ」
「…意味がわかりません」
「わかんなくていいよ…、ん」
唇がくっつけられる
好きでもない
どちらかというと嫌い
でもない力を振り絞って拒むほどでもない
桃屋が満足げに微笑している
「私はあなたが気に入っています」
「なんか上から目線じゃないですかそれ」
「…さあ」
なんでまたキスなんかしてんだろうなあ
……
「号外号外ごーーーがーーーーい!!」
なんだ?朝っぱらから…
廊下を走る生徒
なにかをばら撒いている
廊下に散らばった紙は、そこらの生徒が手にとって読んでいる
「え、これマジ?すごくない、モデル!?」
「え、なに、誰?」
「誰って、七瀬君だよ」
「七瀬夕紀のこと?」
ガタ、と席を立った
なんだ、モデル?
モデルって、なんだ?
「何読んでんの?」
よそ行きの顔で微笑むと、女子らが驚いた顔で俺を見上げる。
「あ、たっ高梨くっ」
「あのね!七瀬君が雑誌のモデルになってるんだって、ほらこれ」
差し出された紙には、
《七瀬夕紀、モデルデビュー!》
と書かれていた