触って、七瀬。ー青い冬ー
第19章 夢色の雨
「何が、どうなってんだ…」
見出しの下には七瀬が載ったというその表紙が印刷されていて、たしかに聞いたことのある《Keiko》という雑誌の名前も書かれていた
何やってんだ…?
「おいおいおいおいおいおい、おーーいっ!」
大声で走ってきたのは三刀屋慎二だ
その手には、例の雑誌
「おい高梨、これを見っ」
三刀屋の手から奪って表紙を見る
「ちょ、おい丁寧に扱えよ!」
白い花びらが舞う黒い空間に、
七瀬夕紀が白いシャツで寝転んで
煽るような、色気付いた目で俺を見ていた
美しい白鳥のようだ
体が動かなくなって目が離せない
そんなに堂々とした力強い目
そんな表情をするなんて知らなかった
「…」
この別人のような七瀬が
俺だけが知っているはずだった七瀬が
こんな風に晒されて
「すごい!それどこで手に入れたの?」
女子の一人が雑誌に飛びついてきた
「ああ、それ俺俺!俺が買ってきた…」
三刀屋が言い終える前に、三刀屋に飛びつく女子。
「これ売ってくれない!?言い値で買うから!」
「え、ええ?いやあ」
「お願い!もうどこにあっても売り切れちゃってて買えないの!」
「あ、ちょ、私も私も!」
「私もおおおおお」
「ま、待って!うわああああ」
三刀屋は念願のモテ期を迎え、無事に死亡した
「…馬鹿か」
騒がしい教室を蹴るように出た
廊下は拍子抜けするほど静かだが
ほかのクラスもあの号外を見て騒いでいた
…馬鹿か。
…何でこんなことになってんだ
何で知らない間に
どうしようもないこの怒りに似た感情は何だろう
別にもう、俺たちは関係ないのに
…関係ないことにしたのは俺なのに
なのに今、どうしようもなく会いたい
問いただしたい
君はもう、俺には何の興味もなくて
一人でこんなに有名になって
遠くに行ってしまうつもりなのかって
もう遠くに行ってしまったのかって
……
「はい、もしもし」
通話する時、すぐに名乗るのはやめた
「…はい、そうですが何のご用件で」
言い終える前に、相手が噛み付くように言葉を
突き刺してくる
音質の悪い受話器から聞こえる砂利のようなノイズは、家の外の喧噪とまるで変わらない
「…お答えしかねます。失礼します」
がちゃん
重い受話器をおいた
もう何度目だろう