触って、七瀬。ー青い冬ー
第4章 仮面の家族
香田は口をきゅっと結んで、
僕の目をまっすぐ見た。
「…好きだから」
雪が僕の身体を冷やしていった。
アスファルトがだんだん白く染まっていく。
マフラーを巻いた女子高生、サラリーマン、人混みが僕の周りを通り過ぎていく。
「何言って…」
僕の睫毛に乗った粉雪が、溶けていった。
「お前のことが、好きだった」
写真のように、止まって見えた。
「中学の時も」
「今も」
雪は音を吸い込んでいって、静かな夜をさらに静寂で包む。
「…ふざけんな」
僕の鼻先は赤くかじかんでいた。
香田はまた僕を馬鹿にしている。
そうに決まっている。
「ふざけてない」
香田の口から、真っ白な息が上がる。
僕は何も言うことができなかった。
雪の中で立ち尽くしたままの僕達を、人々が見ていたって、僕は気がつかなかった。
香田はずっと僕の目を見ていた。
嘘じゃないとわかった。
でも、僕は不思議でならなかった。
それならなぜ、僕は苦しめられたのだろう。
香田の今までの言動は、どういう意図だったのだろう。
そんなことを考えているうちに、香田は僕の腕を引いた。
僕はまるで人形みたいに、されるがままになっていた。
考えているうちに、何もわからなくなった。
「今まで本当に悪かった。ごめん」
僕は香田に抱きしめられていた。
僕は何が起こっているのかわからなかった。ただ、夢じゃないらしいことはわかった。
「自分勝手でわがままだった。
お前への気持ちを嘘だと思いたくて、
お前を傷つけた。
でも、その度に嘘じゃないって分かっていった」
「俺はどうしても認めたくなかった。
だからお前に認めさせようとした。」
《認めろよ。お前は男が好きなんだろ》
「それでもお前は俺に屈しなかった。
だからどんどんエスカレートしていった。
最後のあの日、俺は本当にしてはいけないことをしたと思った。だから最後に謝った。」
「でもこの間、高梨とお前と、
もう会わないと思ってたのに。
お前に話しかけてみたら、
お前は前と変わってなくて」
「中学の頃みたいに、同じことした。
もうお前を傷つけないって、
謝ったのにそれを忘れて…」